大人の考える技術

若林計志が経営・MBAのフレームワークやマネジメント理論を応用しながら、ビジネス・社会問題を考察します

中東のシリコンバレー テルアビブの実力とイスラエルの現在

2023年2月末に、イスラエルに行ってきました。死海文書を勉強していた学生時代、ヨルダン川西岸地区(WEST bank)占領地区の難民キャンプ等で紛争解決の仕事をしていたNGO時代に続き、20年ぶりのイスラエルですが、今回はビジネスがメインです。

 

Tel Aviv に来て、まず思うのはマツダ車がかなり多いこと。トヨタが多いのは感覚的に分かりますが、街中でCX-5をはじめとしたマツダカーの存在感があります。(下記は道沿いの駐車場)

マツダイスラエル

ビジネス統計を見ると2021年のイスラエルマツダの販売ランキングは5位ですが、Bクラスというセグメントでは2022年にMazda2がトップだったのこと。


EVで日本はこれから厳しいのではないかと言われていますが、下手なEVよりトータルでパフォーマンスの良いエンジンカーの需要は一定数あるので、世界は欧米ほどは極端にEVシフトしないだろうと思います。


また物価が高く(というか日本が安すぎ)、ちょっとした外食ですぐに4000-5000円するので、結構躊躇してしまいますが、逆に言えば、日本国内やアジアで生産した日本車を中東で売れば、輸出的には有利なので、商売的にはおいしそうです。


ちなみにYmobile!のローミングサービスでそのまま現地で携帯が使えるので、ヤマト宅急便の再配達やら、なんやらと普通に電話がかかってきます。ある意味、世界は狭くなっています。

 

また経済発展が進めばグローバルレベルで趣向が似てきますが、経済都市テルアビブも御多分に洩れず、東京と同じようなところが多いのに気づきます。スーパーに行けば、見たことがあるようなものを売っていますし、基本的に食事も美味しい。確かに一部の店は、独特の香辛料が香る”The中東”って感じですが、そのほかは共通点の方が多く見えます。

OnePeace@Israel


その一方で、周辺国との紛争は続いているので若者の兵役もしっかりあり、インテリジェンス部隊出身者が兵役後にテックカンパニーをどんどん起業します。

 

下記写真は投資家や関係者を集めたテルアビブのテックカンパニーのイベントですが、イスラエルのアドバンテージの一つは、ビジネスレベルの人は、ほぼ100%英語が喋れることです。これによって世界から優秀な人材を集められますし、クラウドサービスなら、そのままグローバルにスケールできます。

Start up Meetup @Tel Aviv

最近のGoogleページ翻訳は結構賢くて、Chromeのボタンを押すだけで、日本語ページもちゃんと英語に訳しますが、それでもカスタマーサービスなどは、まだ言語の壁があります。もちろんDeepLなどももだいぶ賢くなっていますし、GPT、NotionやSlackも進化するので、10年ぐらい経ったら、完全に言語の壁は無くなって、ボーダーレスなDAOみたいなのがIT企業の主流になる・・・かは分かりませんが。

 

ただ、こちら在住の方の話だと、イスラエルの知性は2極化していて、頭がいい人は世界トップレベルで賢く、こういう人等がテックを牽引する一方、全国民の平均値を取ると、そんなに高くないとのこと。ただ知性のインジケーターとして、ユダヤ教正統派などの敬虔な宗教的生活を送っている方々の知性を何と捉えるという問題はあります。

 

いずれにしろ、あちこち道路やオフィスビルの工事が行われていて、なんだかパワーが溢れている感じがする街になっています。

 

⚫︎エルサレム(Jerusalem)

さて、現在ではテルアビブとエルサレム間には高速鉄道が通っており、40分ほどなので、東京で言えば、中央線で三鷹ー東京駅に移動するぐらいの感覚です。

 

約20年ぶりに訪れるエルサレムの旧市街は、以前よりずっと綺麗になっていて、こんなジョークTシャツも普通に売っています。

Old city

T-shirt shop@Jerusalem

経済の中心がテルアビブなら、イスラエル政治の中心であるエルサレムは、今年1月に右派ネタニヤフが首相に就任し(6回目)、極右政党の「宗教シオニズム」、「ユダヤの力」などが政権に加わっています。そこで今後、宗教対立が悪化することが懸念されています。(ネタニヤフと言えば、20年前に読んだ「テロリズムとはこう戦え」(1997刊 ネタニヤフ著 落合信彦訳)がすぐに思い浮かびます。)

 

イスラエル、ネタニヤフ氏首相へ 「最も右寄り」政権に

www.nikkei.com

 

例えば、イスラエルではネタニヤフ政権が司法制度改革案(国会(クネセト)が最高裁の判断を覆せるようにする内容)について、三権分立を揺るがす危険な動きとして全国で激しい反対運動が起こっています。

 

そんなネタニヤフの支持基盤は、敬虔なユダヤ教正統派や占領地入植者を含む右派勢力。日本でも、北朝鮮から危機が大きくなれば右派の声が強くなるのと同じで、周りを”敵国”に囲まれるイスラエルにとって、政治も国防のためのサイバーセキュリティを中心に発展したテックカンパニーも、宗教もぜんぶつながっているのです。

現地在住の日本人商社マンに聞いた話では、ウルトラオーソドックスと呼ばれる宗教的な生活をしているユダヤ教徒達は、基本的に経済活動に従事しておらず、政府から補助金を受けて生活しています。

 

そうなれば、自然に右派政権を支持することになります。

 

逆にその補助金の原資を作り出しているテルアビブのビジネスパーソンから言えば、右派の動きは、自分たちが納めた税金をビジネスの発展とは逆の方向に使う訳ですから、ネタニヤフの政策は言語道断です。

 

元々、ネタニヤフのMITスローンのMBA卒&BCG(ボスコン)卒業生でもあるので、経済のことはわかっており、地頭はいいのかとは思いますが、いろいろな要素が絡み合うこの地域では、一刀両断的のような解決策はなく、常にシステム思考的な問題解決が必要とされます。

 

個人的には、世界を席巻するイスラエルのテックカンパニーの中から、将来紛争問題を解決するイノベーションが出てくるのを期待したいところです。