大人の考える技術

若林計志が経営・MBAのフレームワークやマネジメント理論を応用しながら、ビジネス・社会問題を考察します

社会貢献と商売の間:コーズリレイテッドマーケティング

先日、二子玉川駅近くにある

日本理化学工業」さんにお邪魔してきました。

EQパートナーズさんのコーディネートで、海外MBAの学生さん一行が同社を訪問する際のお手伝い(通訳)をしたのですが、これは本当に貴重な体験でした。

日本理化学工業が、広く世に知られるきっかけになったのが、2008年にヒットした

「日本で一番大切にしたい会社」


日本でいちばん大切にしたい会社日本でいちばん大切にしたい会社
(2008/03/21)
坂本 光司

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という本なのですが、この本に書いてある通り理化学工業では全社員の70%を知的障害者の方々が占めています。

実際に工場のラインを見学させていただいたのですが、製造現場は100%が知的障害者とのご説明でした。

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障害者雇用のきっかけ

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155同社が知的障害者を雇うきっかけになったのは、50年以上前に近所の養護学校の先生が就職の相談に来たこと。

最初の2回は実質的に門前払いしたのですが、3回目の訪問で社長は心を動かされます。

先生はこう言ったそうです。

「もう就職をお願いするのは諦めました。しかし、最後のお願いを聞いてください。生徒たちに働く経験を1度だけでも味わわせてくれませんか。働くことを経験させた上で、卒業させてやりたいのです。」

「その機会がなければ、今後一生"働く"という経験をせずに、福祉施設で過ごすことになるんです。」

こんな言葉に心を動かされ、同社では2週間だけ、2人の女学生(15歳)を”インターン”として雇うことになります。

2週間を終えた頃、社長のところに一緒に働いていた工員たちが集まってこう言ったそうです。

「どうかこの子たちを雇って上げてください。この子たちは本当に真面目でいい子たちです。彼女たちができないことは、私たちがやります」

こうして社員たちの強いプッシュによって、同社は当時まだまだ偏見が強かった知的障害者を雇用することになりました。

そして実際には障がい者も仕事の割り振り方によって健常者以上の高いパフォーマンスを発揮することに気づきます。(まさにマネジメントコントロール!)

ただ大山さん(当時専務)には

「怒られながら工場で働くぐらいなら、施設でのんびり暮らす方がいいのではないか」

という思いもあったそうで、禅寺のお坊さんにその疑問を投げかけたところ、こう言われたとそうです。

人間の究極の幸せとは、人に愛されること、ほめられること、役に立つこと、必要とされること——の4つ。このうちあとの3つは会社で働くことを通じて叶えられる幸せ。福祉施設では味わえませんよ

ここから大きく大山さんの人生は変わり、会社のミッションとして障がい者雇用を推進することになります。そして絶え間ないオペレーションの改善の成果が現在まで会社を支えているのだそうです。

▼詳しくは

http://www.rikagaku.co.jp/handicapped/

http://www.nippon.com/ja/features/c00613/

ひとしきり学生さんたちと工場見学させていただいた後で大山社長が嬉しそうにこうおっしゃっていました。

「最初の雇った二人の女学生のうち、1人は65歳までここで勤め上げ、もう1人は68歳まで勤めて、昨年退職しました。」

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●コーズリレイテッドマーケティング Cause-Related Marketing

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工場見学後の質疑応答で、各国の学生さんから

「もっと障がい者を雇用していることを、商品の特性としてアピールした方がいいのではないか?」

という質問が複数ありましたが、これは本当に難しい問題です。

なぜなら

「社会的弱者が作ったものだから、少々高くても買ってください」

という「お情け頂戴マーケティング」はあまり長続きしないことが多いからです。

さらに心ない人から「弱者をネタに儲けようとしている」という批判が上がることも。

本当は関係者が自腹を切って活動しているなど、厳しい台所事情の団体がほとんどです。その意味できちんと利益を上げている日本理化学工業」は本当に希有な存在なのです。


英語でいう「Sustainable Business(持続可能ビジネス)」を実現しようとするなら、やはり真っ当な品質や価格で勝負した方がいいのではないかと思う一方で、商品を買うことで「社会貢献」をしたいと思っている消費者もたくさんいます。

こういう社会貢献に絡めた手法を

「コーズリレイテッドマーケティング」(”大義”型マーケティング

と言います。

有名な例として「ボルビック「1L for 10Lプログラム」があります。

ミネラルウォーターのボルビックを販売するダノンウォーターズは、1Lの売上ごとにアフリカに10Lの水が供給される「1L for 10L」プログラムを行っています。

2005年にドイツ、2006年にフランスではじまり、2007年に日本でも開始されたこのプログラムを通じ、初年度の2007年には約4200万円がユニセフに寄付されました。

そして実際にこの資金はアフリカのマリ共和国の井戸の建設やポンプ修理に当てられ、7億リットルの水が供給されています。

ミネラルウォーターを買う事でアフリカに社会貢献できるという物語は、元々ボルビックという商品が持っていた訳ではありません。しかしこの物語を付け加える事によって商品に新たなバリュー(価値)が加わったのです。

「何か社会貢献したくても具体的にどうしたらいいのか分からない」

「仕事が忙しいけど、何かしたい」

潜在的に思っている人々に、コンビニでボルビックを買うだけで、アフリカの人々を笑顔にする物語に参加できる、そのような具体的手段をボルビックは商品を買う<価値>として提示したのです。

環境に優しいエコボトルや電気自動車なども、この「コーズリレイテッドマーケティング」の仲間です。


日本理化学工業の主力商品である「黒板用のチョーク」の市場がこれから大きく伸びるのはあまり期待できません。

(同社ではキットパスなど新商品の開発を進めています。)

また発展途上国からの安い商品による価格攻勢に対抗していかなければならない厳しい現実もあります。

経営者としては今後も障がい者雇用を守っていかなければなりません。

日本理化学工業」のマーケティングをどうすればよいのか。

参加者からは

障がい者をエンパワーメントしてビジネスにすること自体が御社の強みなのではないか。そちらをもっと強化してはどうか」

という鋭い意見もでましたが、どうすればいいのか私なりに思考中です。

*帰りに学生達が乗ったバスに向かって4-5人の工員の皆さんが飛び出してきて、満面の笑みで手を振っていらっしゃたのが印象的でした。

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週刊メルマガ「大人の学ぶ技術」より

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