大人の考える技術

若林計志が経営・MBAのフレームワークやマネジメント理論を応用しながら、ビジネス・社会問題を考察します

「不確実性」を コントロールするのがマネジメントの役目

いろいろ考えていると、経営とは結局「不確実性(Uncertainty)」をどう捉え、それをいかにコントロール(許容)するかに帰結するのではないかと考えています。

起業家は不確実性を「チャンス」と捉え、管理者は「リスク」と考えます。

世の中に無限の選択肢がある(=不確実性が高い)中で

「ゴール(正解)はこっちだ」

といって、そのゴールにたどりつくまでの具体的な道筋を表す(=「見える化」する)のが「リーダーシップ」であり、リーダーの役目です。

まさにベンチャー起業家はこのタイプですし、国の将来ビジョンを示して人気を博したケネディのような政治家でも、人類の未来を説く宗教的指導者でも、このリーダーシップの本質は同じです。

多くの人は、何が正解か分からない不確実な状態に心理的不安を感じているので、確からしい正解を主張しくれる(=不確実性を下げてくれる)人に魅力を感じ、ついていくのです。

ただし、不確実性をチャンスと捉えて始まったベンチャー企業でも、発展の段階では必然的にキャッシュの安定性を重視するので、不確実性を排除しようと組織をシステム化する方向に向かいます。そして次第に保守的になり、リスクをとれなくなってしまうのです。これが会社からイノベーションが出てこなくなる大きな要因です。

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(当たり前ですが)現実は不変でありません。組織を取り巻く環境(ビジネスであれば市場や顧客の嗜好)も常に変化しています。

またリーダーがビジョンを描いて人を引っ張っても、それを具体的に実行する組織はいろいろな思いや個性を持った「不確実性」の高い人間の集団です。

現場が思った通りに動く事はむしろ稀ですし、人間なのでモチベーションも変化します。また情報伝達のプロセスで解釈のズレも生じます。

その中で成果を上げるのが「マネジメント」の役割なのです。

よく工場などで事故が起こったときに

「現場が本部の指示通りにしていればこんな事故は起こらなかった」

と会見が行われる事はありますが、そもそも不確実性の高い状況では現場は指示通りに動けないのだ、という前提でマネジメントの仕組みを作らねばダメなのです。


このような「不確実性」をマネジメントするための方法には大きく3つがあります。

1)組織を理念でつなぐことで、主に精神面から不確実性をコントロールする

2)ルールやマニュアルで、主に行動面から不確実性をコントロールする

3)プロセスを細かく分けて、不確実性を最小化する

例えばスーパーマーケットは仕入れを安定させる(=不確実性を排除)ために、巨大化した方が一般的に有利です。

というのは、今日は良い品が入らなかったから、早めに店を閉めるという訳には行かないからです。良い品物があろうがなかろうが、テナント代も、スタッフの給料、借入金も毎月払わなければなりません。

また安売り競争や人の入れ替わりが激しいので、時間やコスト面をかけてパートさんをみっちり教育するより、最低限の教育を行って、後は「ルール/マニュアル」をベースに、管理システムを機械化した方が確実に不確実性が下げられ、競争力が上がります。したがって(2)が主に使われます。

大手スーパーの巨大化が進んでいるのはまさに上記のような背景がありますが、行き過ぎるとメンタルの問題(うつなど)が起こったり、変化する顧客ニーズに対応できなくなって、長期的な競争力を失ってしまうリスクを抱えてしまうのも事実です。

人間は機械のようにはどうしても働けません。適度に驚いたり悲しんだりするような喜怒哀楽を伴うそれなりに「不確実」状態に置かれないと、精神の健全性を保てないです。

また昨今では「バイトテロ」(ツイッターなどにとんでもない写真を投稿してしまうバイト)が発生して、店が廃止に追い込まれるリスクもあり、「不確実性」を(2)で押さえ込むには限界も見えてきています。

したがって、(1)を積極的に取り入れ、組織がめちゃくちゃにならない程度に「不確実性」を許容する人間らしいマネジメントの研究が、今後の経営のテーマになっていくだろうと考えています。

またプロジェクトマネジメントの分野では(3)やり方で、長期間で一つの大きなプログラムを仕上げていくより、試作品をはやめに市場に出して、ユーザーからフィードバックを得ながら開発を進めていく「リーン開発」の手法や、プログラムのパーツを細かく分けて、小さなPDCAもサイクルを繰り返していく「アジャイル開発」などが主流になってきています。

新規事業投資の分野においても、段階的に投資を行ってその都度継続を判断する「リアルオプション」が注目されています。

これらはすべて「不確実性」のリスクを最小化するための手段であることに変わりはありません。

ただ不確実性は小さければ小さいほどいいというものでもありません。排除しすぎるとイノベーションが起こらなくなるからです。

したがって3Mの15%ルールやグーグルの20%ルールのような制度を設けて、積極的に「不確実性」を作り出そうという動きもあります。

この絶妙なバランスがマネジメントの難しいところなのかも知れません。