大人の考える技術

若林計志が経営・MBAのフレームワークやマネジメント理論を応用しながら、ビジネス・社会問題を考察します

良心的なネゴシエーターがハマりやすい落とし穴

ネゴシエーター(交渉人)はいつも自分のポジショニングを振り返る必要があります。というのは、交渉の過程で、ついつい自分の立ち位置を忘れてしまうからです。

交渉の基本は「WIN-WIN」です。

勝った負けたで勝負がつく弁護士の世界や、相手との関係構築が不要なワンショットディール(一回かぎりの取引)でもない限り、双方が「勝った」と思わなければ、交渉は失敗です。

そう考えればビジネスにおいて、関係性を無視した交渉はほとんど存在しないのです。

ただし、ここに陥りやすい罠があります。それは良好な関係を構築しようするあまり、すっかり相手の主張に共感してしまい、本来の自分の利益を忘れてしまう事です。

会社で言えば、自社から派遣した社員が、相手の主張や都合を丸呑みしてしまい、自社に帰って一生懸命社内を説得しようとしている感じです。(性格の良い人ほど、ついついこの落とし穴に落ちてしまいます。)

そして最後には社内では「お前、どっちの見方やねん!」と言われてしまいます。

一般的に相手は相手のロジックで、相手が有利なるように交渉を進めてきます。(もちろんWin-Winを目指してくる良心的な人も中にはいますが。)だからこそ、こちらの立ち位置を常に念頭に置きながら、自分と相手の双方が本当に求めているもの(Interest)を見極め、それらを両立するソルーションを見つけなければならないのです。

時には相手に嫌われてでも、長期的に見たら感謝されるような合意を出すのが本当のプロです。その意味で「顧客満足」とは、相手の主張をそのまま飲むのではなく、自分の中で本質を見極めて、相手の期待を上回るオファーを出す事なのです。

たとえば、登山愛好家のアウトドアグッズ店の店員が、安物のウェアを買おうとしているお客さんの話を聞き、「それならワンランク上の商品がいいですよ」とすすめたりするケースも交渉と言えば交渉です。(それが単なるセールストークなのか、プロとしてのアドバイスなのかは見極める必要がありますが。)