池井戸潤原作「下町ロケット」第5話(ロケット編)が昨日放送(2015/11/15)されました。
最大の見せ場は、帝国重工の経営会議で財前部長が藤間社長に佃のバルブを使うことを進言するシーンでした。
多くの社員たちにとって、”ロケットのキーテクノロジーはすべて内製化する”いう藤間社長の掲げる方針をひっくり返すことは不可能で、そんなことを提案しようものならクビが飛ぶことを恐れていました。
案の定、四面楚歌の状況で吉川晃司演じる財前部長が、藤間社長に向かって「佃製のバルブを使用したい」とプレゼンしますが、藤間社長は
「ありえん」
と一蹴。
ただそこからの財前部長の交渉(社内説得)が素晴らしかったので、図解してみました。
まず対立のポイントは
「佃製作所製のバルブを使う」vs 「佃製作所製のバルブを使わない(帝国重工の内製品を使う)」
です。
この「手段」のレベルで対立すると、通常は罵り合いになって状況を悪化させたり、パワーが強い方が押し切る形になります。(当初の藤間社長もこの手段レベルで「ありえん」と判断したのでした。)
そこで、交渉では「手段」の奥にある「ニーズ(要望/本音)」に注目します。すると
-「佃製作所製のバルブを使う」
→「プロジェクト(スターダスト計画)を成功させるには世界最高の部品を使いたい」
-「佃製作所製のバルブを使わない(帝国重工の内製品を使う)」
→「それが社長の方針であり、帝国重工の技術力をアピールしたい」
という思いがあるの分かります。
通常の対立の多くは、この「ニーズ」に同時に満たす方策をさがすことで解決に向かいます。
では今回の場合、
「プロジェクトを成功させ」かつ「帝国の技術力をアピールする」
うまい方法があるでしょうか?
この難しいシチュエーションで財前部長は「最優先事項」をアピールします。
つまり、
「プロジェクトを成功させる」
ことが全てにおいて最も重要であり、そのためには「考えられる世界最高の技術を使う必要があり」、そのためには「佃製の部品を使うべきである」という主張です。
そもそも「ロケットの打ち上げは高いリスクを伴うので、少しでも安全性を高める必要がある」という前提があるので、
「プロジェクトを成功させる」には
「内製品を使う」<「佃製を使う」
となる訳です。
財前部長はこうアピールします。
「社長も昔は帝国重工の優秀なロケットエンジニアだったと存じております。社長に正しい判断をしていただけると信じております。」
ここがこのシーンで最も重要なセリフでした。
こう言うことでどういう結果が起こったのでしょうか?
自身もかつてこの分野のプロフェッショナルであり、いかにリスクが高いかを分かっている社長は、自身のプライドをかけて自主的にどちらを選ぶべきかを判断をしたのです。(もっといえば、誰かに説き伏せられて何かを判断した形にはならないので、メンツもきちんと守られました。)
交渉術的には「最優先事項」を
「相手(全員)の従うべき規範(Norm)」
と言います。もし社内で対立が起こっている場合、まずは対立を乗り越えて全員が従うべきこの規範(目的/目標)をきちんと確認し、お互いがどう行動すべきか本人に考えるよう促すことで、禍根を残さない形で対立を解消できることも多いのです。
ちなみに図解でみると分かりやすいのですが、
「スターダスト計画を成功させる」ためには「帝国重工の技術力をアピールしたい」という主張はロジカルではないのです。この図解は、「クラウド」と呼ばれる対立解消のためのフレームワークです。
もっと詳しく知りたい方は参考図書をどうぞ。
また上記のシーンは民放連合の動画サイト「TVer」で見られますので、ご興味がある方はどうぞ。