私自身の講師経験や、社会人ビジネススクール(MBA)の運営を通じた講師と受講生のやり取りを思い出すと、筋の良い質問、価値のある質問には、ある程度の共通点があります。
下記にそのポイントをまとめてみました。
1)調べればわかる事以上の内容を聞く
せっかくお互いに貴重な時間をとってその場に参加しているので、Googleで検索すれば、すぐにわかるようなことを聞くことにはあまり意味がありません。
例えばユニクロ(First Retailing)創業者の柳井さんが講演されたとして、質疑応答で
「御社の売上はいくらですか?」
「創業何年目ですか?」
「経営理念は何ですか?」
と聞くことにあまり意味はありません。(よほど特別な意図でもない限り)ストレートな物言いをする講師なら「それは自分で調べてください」と回答するかも。
お互いに貴重な時間を使ってそこにいるのですから、「*という経営判断した時にキモになったのは何ですか?」といった、その場でしか聞けないような内容を吟味して聞くと、お互いにとってより価値のある時間できます。
2)講師の知識を「試す」のではなく、エッセンスを「引き出す」
たまに
「最近***というニュースがありましたが、先生は知っていますか」
という類の質問をする方がいます。また質問の形を借りて、自分の意見をとうとうと説明して、結局何が質問したいのかわからない人もいます。
当然ながら、他の参加者は
「それ、わざわざここで聞く必要ある?」
「何が言いたいの?」
と思いながら聞いています。
「先生を試したい」
「自分の有能さをアピールしたい(ひけらかしたい)」
「マウントを取りたい」
という特殊な意図があるのでもない限り(そういう意図があっても避けた方が良いと思いますが)、セミナー後の質疑応答時間などでは、セミナー内容そのものを深く掘り下げる質問のほうがベターです。
多くの場合、講演者は時間の制約のもとで、泣く泣く内容を割愛したり、かなり要約して説明したりしています。
その部分をつっこんで質問することができれば「よくぞ聞いてくれました!」とばかり、より深い洞察や、その場の雰囲気によって、そこでしか聞けない話を聞くことができます。
良い講演は、スピーカーだけが作り出しているのではなく、オーディエンスの力量でその質が何倍にも変わってきます。
3)具体的に聞く
「どうしたら先生みたいにすごくなれるんでしょうか?」
「**についてどう思いますか?」
といった抽象的な質問には、抽象的な回答しかできません。(実際のところ、有名人はその手の質問を過去に数千回も聞かれているので、月並みな回答しか返ってこないのが普通ですし、わざとらしい「よいしょ」質問は逆効果です。)
質問するなら、講演者が”本域”を発揮できる(せざるを得ない)するような質問がオススメです。
例えば、
「神奈川の**というエリアで席数30の居酒屋を10年経営しています。リピーター客が売上の70%を占めていますが、今度近所に大手の激安居酒屋チェーンAが進出を計画しており、お客さんを奪われることを恐れています。うちも追従して価格を下げようと思っていますが、同じような経験があれば、ご意見をお聞かせいただけませんか?(何かアドバイスいただけませんか?)」
という質問はどうでしょうか? もし講師が過去にそれに近い経験をして克服していたり、プロとして本業でコンサルティングをしている領域であれば、おそらく本気(ガチ)でバリューの高い回答してもらえる可能性が高いはずです。(むしろ、そこでお茶を濁したり、イマイチな回答しかできないのであれば、その程度の実力だと見られるリスクさえあります)
もちろん、講師にとっても回答のハードルが上がるので、考えを整理したり、内省するきっかけにもなり、お互いにとってメリットがあります。
4)質問の「手段」と「目的」を意識する
質問やアドバイスを求める時には、手段を目的を意識すると、質問の切れ味が良くなります。
前述の「具体的に聞く」で使った例を使うと、
目的「常連客の客離れを防ぐ」
手段「価格を下げて対抗する」
という構成になっています。質問する時に「客離れ」を防ぐに目的について広く方法を知りたいのか、「価格下げる」という特定の「手段」の是非について聞きたいのかによって、質問のポイントはかなり異なります。
同じように「高齢者の自動車暴走で犠牲になった人はかわいそうだから、高齢者には免許を返納させるべきだと思うが、それについてどう思うか?」という質問には、目的と手段がごちゃ混ぜにに入っており、ポイントがはっきりしません。
回答者がうまく論点を整理して回答してくれる事もありますが、可能であれば、質問者自身が
「目的」を達成するために、他に「手段」があるのかを聞きたいのか、それともその「手段」そのもの有効性に限定して聞きたいのか
を整理すると、対話の価値がグッとあがります。
いろいろ書きましたが、
・考えすぎて何も質問しない
・頭が悪いと思われるが恥ずかしくて黙っている
というのが一番もったいないので、上記をガイドラインにしつつも、恥をかきながら実践で質問力を鍛えるのがベストです。(目立つのが嫌だ、と思っても、案外、他人はすぐに忘れてしまいます)
もしあなたが学校運営者や講師であれば、クラスの終わりに、どういう質問が良かったかについて、全員でディスカッションしても良いかもしれません。
「質問力」に関しては、いろいろな書籍が出ていますので、ぜひ検索してみてくださいね。
PS
これまでの経験で、リアルで見てすごいと思ったのは、このような方々です。
・藤田田(日本マクドナルド創業者)
・稲盛和夫(京セラ創業者)
・大前研一(マッキンゼー&CO 元日本支社長)
・孫正義(ソフトバンク会長)
・柳井正(ファーストリテリング会長)
どの人にも、その場の空気を一瞬で変える独特の雰囲気、迫力、魅力があります。その真価を引き出せるかどうかは、オーディエンスの「質問力」にかかっていると言っても過言ではありません。