大人の考える技術

若林計志が経営・MBAのフレームワークやマネジメント理論を応用しながら、ビジネス・社会問題を考察します

スリランカの同時爆破テロと紛争問題

昨日スリランカの8箇所で同時爆破テロが起こり、300人近くが亡くなった。2009年に内戦の終結以来、年率4−5%の成長率で、他の新興国にキャッチアップすべく頑張ってきた。

 

観光産業も伸びており、昨年は日本人が4万人も訪れているが、それらに水を差した形になる。

 

今回、スリランカで幅を利かせる仏教原理主義者がターゲットではなく、キリスト教会がターゲットになった。

 

政府はイスラム系過激団体(NTJ/ナショナル・タウヒード・ジャマート)が主犯という見方をしている。

 

www.huffingtonpost.jp

 

情報機関には10日前にテロ攻撃の可能性に関するレポートが上がってきていたようだけど、事実上無視されたのは、平和ボケだったのかもしれない。

 

www.nytimes.com

 

ここ半年ぐらいは、大統領府と首相がもめており、首相には大統領府からのセキュリティアラートが上がってこなかったようなので、政争のツケを払わされたとも言える。

flowone.hatenablog.com

 

私がNGOで滞在していた2000年ごろは、この手の爆破テロは日常茶飯事だったので、破壊されるリスクが高い高層ビルなどはなく、ホテルやショッピングセンターなど人が集まるところは、セキュリティチェックが厳しかったが、一昨年訪れた時は、高級ホテルやタワマンがバンバン立ち、Majestic City (大手ショッピングセンター)の入り口にも警備員がほとんどいなくなっていて驚いた。

 

今回の件で、少しこの様子も変わるかもしれない。

 

2000年当時の現地レポートが一新塾HPに残っていた。

www.isshinjuku.com

 

このレポートの通り、戦後のスリランカは「シンハラ・オンリー政策」、つまりマジョリティである仏教系シンハラ人を優遇する政策を進めた。

 

www.mofa.go.jp

 

仏教系過激ナショナリスト団体がこの動きを主導したのはよく知られており、今でもイスラム系の避難民であるロヒンギャに危害を加えていることも報道されている。

 

newsphere.jp

 

余談になるが、「イスラム系過激派」とよく報道されるので、イスラム=怖い、という偏見を持つ人がいるが、スリランカの仏教系ナショナリストはいわゆる過激派そのものだ。つまり、仏教にも原理主義・過激派がいるということで、「宗教が過激かどうかということではない」ということが良く分かる例がスリランカである。

 

そして偏狭なナショナリズムがマイノリティであるタミル人との軋轢を生み、タミル系武装組織「LTTE」を誕生させ、内戦となった。

 

そして「シンハラ・オンリー政策」の影で、タミル人と同じように人権蹂躙されたのがイスラム系で、彼らがイスラム国(IS)の残党等などと連携して起こしたのが、今回の爆破テロというのが政府の見立てである。

 

また今年3月に発生したニュージーランドのモスク襲撃の報復との見方もある。

www3.nhk.or.jp

 

いずれにしろ、多民族国家というのがバランスが命であり、極端な政策をとると、そのツケを長年払わされる結果となる。

 

スリランカ内戦は2009年に集結したが、今後のどうなるのか注視したい。

社会的コストとメリットのバランス

高齢者の自動車事故も、原発過酷事故も本質は同じで「社会的コスト」と「メリット」の比較で世の中は動いていることを示している。高齢者を運転禁止にするコストよりも、少々の事故が起こっても(ベンサム的な功利主義から)メリットの方が大きいということを社会は選択している。

 

だけど、心情的には被害当事者だったら受け入れるのは無理だろうと思う。このギャップをどう乗り越えたら良いのだろう。

 

news.yahoo.co.jp

理由と目的で水掛け論を脱する(「ロンリのちから」より)

高校講座「ロンリのちから」が面白い。ネット動画で各回10分程度なので、ぜひお時間があるときに。

www.nhk.or.jp

 

第5回は、「水掛け論」から脱するためには、「主張」の背景にある「理由」に着目し、議論を深めることが大事というのがポイントでした。

 

もう一つ付け加えると「主張」の背景にある「理由」を聞いたときに、さらにその「理由」によって達成したい「目的」をチェックすることで、代替手段を提案するという方法もあります。図解すると下記のようになります。

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理由と目的

「主張」を崩すには、まず「理由」を検証し、その誤りを正す方法があります。

 

例えば、新しいスマホを買っても、処理が遅い原因がクラウドサービス側にある場合は、スマホ側の処理速度を上げても、結局スピードは速くなりません。(ボトルネッククラウドにあるからです)

 

もう一つは、「理由」によって実現したい「目的」を聞いて、他の方法を提示することです。例えば、仕事を早く片付けたい場合、仕事の方法そのものを変える方が良いかもしれません。

 

いずれにしろ、主張の背景にある「理由」と「目的」にフォーカスすることが、水掛け論を脱するために必要です。

 

まとめ

・手段で争うと水掛け論になる

・「手段」の背景には「理由」がある。理由の背景には「目的」がある

・「手段」を見直すには、2つの方法がある

 1)理由が正しいかチェックする

 2)目的を他の手段で達成できないか考える

 

 

論理包含とTOCブランチの矢印(→)の違い

論理学で「AならばB」を「A→B]と書く。これはテクニカルには「AがBを包含していますよ」ということを意味している。

ja.wikipedia.org

 

例えば

 

「これはみかんだ」→「これは果物だ」

 

といえば、「みかん」という言葉の中に、「果物」が含まれている。

 

有名な

 

大前提「人間は死ぬ」

小前提「ソクラテスは人間だ」

結論「ソクラテスは死ぬ」

 

もこのカテゴリーである。

 

ややこしいのだが、因果関係も「A→B」で表すことが多い。(「もしAならば、結果としてBである」)

 

この場合、矢印は包含関係ではなく、Aが原因となって、Bが引き起こされているいうCause-Effect の関係を示しており、包含関係ではない。

 

頭の整理のためのコラムでした。

借金トラップ回避に成功したマハティールの交渉術

スリランカやフィリピンが、資金&インフラ建設援助の名目で中国の借金トラップにはまってしまい、塗炭の苦しみにあえいでいるケースを何度かご紹介しました。

 

もちろんトラップといっても、無理やり「押し貸し」した訳ではなく、インフラ整備を急ぎたい新興国の政治家が、借り手としてのリスクを十分計算しなかった事にも責任があります。

 

ただプロジェクト予算がオーバーして中国からの借り入れが増加している側面もあり、それが意図的なのかどうかはわかりませんが、責任はどっちもどっちです。

 

ちなみに、日本の円借款金利が1%、中国が6%でその差6倍ですが、 中国の場合は格安(?)の国営インフラ建設会社付きです。(日本のODAも似ていますが。)

 

昨日の「Forbes」の記事によると、マレーシアのマハティール首相は、この借金トラップをうまく抜け出る交渉を成功させたようです。

 

forbesjapan.com

下記引用

 マレーシアは中国との取引にあたり、あえてスリランカパキスタン、フィリピンが取らなかった行動を取った。中国政府を交渉テーブルに引き戻し、同国がマレーシアで進めてきたプロジェクトのコスト削減を実現したのだ。

中国は先ごろ、同国が投資し、同国の業者が工事を請け負うマレーシア東海岸鉄道(ECRL)の建設費用を3割以上減額することに合意した。これは、マレーシアのマハティール・モハマド首相にとって大きな勝利だ。

 

www.nikkei.com

 マハティール氏の説明によると、建設費用を215億リンギ(5800億円)圧縮する過程で、既存の鉄道との乗り換えを容易にするといった路線計画の改善をはかった。地元の経済界が建設による利益を享受できるようにするため、マレーシア企業の受注割合も従来計画の3割から4割に高める。

基本的にはプロジェクトを完全に中止するという「BATNA」を提示することが決め手になったようです。

首相は昨年8月にECRLプロジェクトの中止を発表。中国を交渉のテーブルに引き戻し、そして勝利した。

 

「契約を破棄するという選択肢を常に保持する」と王道な戦略が、交渉において重要であることが証明するようなケースです。

 

相手に依存しなければならない状況を作った時点で、当然ながら交渉力は弱くなります。ITプラットフォーマーに翻弄されるユーザー企業も同じですが、よっぽど信頼できる相手でもない限り、自分の運命を100%相手にゆだねる状況はリスクが高すぎます。

 

現役復帰した93歳のマハティールですが、深みにハマる前に、そこからうまく抜け出したということで、さすが老練な百戦練磨の政治家の実力を見た気がしました。

利益追求パラダイムの進化(「フォード前」と「フォード後」)

フォードの始めたベルトコンベアによる自動車の組み立て方式は、当時の大多数の人にとっては理解しがたかったそうだ。

 

なぜなら、当時の勝ちパターンは、

 

独占的な地位を得た後、生産を抑え、価格を上げること

 

だったら。これに対し、フォードは逆に考えた。

「利益を上げるためには、価格を引き下げ、生産量を増やすべきだと考えた。この大量生産方式の発明が、のちの生産方式を支えた」

 

すでに起こった未来―変化を読む眼

すでに起こった未来―変化を読む眼

 

  

利益=価格×量 

 

であると考えると、

 

フォード前:利益↑=価格↑×量↓

フォード後:利益↑=価格↓×量↑

 

の違いがあった訳だ。今から考えると当たり前じゃん、と思うが、当時はパラダイムシフトだったのだろうと思う。

 

市場が渇望しているプロダクトなら、20〜30回に一回のホームランを狙うより、ヒットを量産するイチロー型の戦法の方が、トータルで得点率(利益)は高くなるのだ。

 

昨年だったか、ホクレンがチーズの生産量を意図的に減らして、チーズ不足を演出し、価格を上げている実態がドキュメンタリー番組でスクープされていたが、こういう発想は「フォード前」に近い。(それで酪農家が儲かっているのならまだ分かるが、逆に方向に進んでいるのだから、笑えない話だ。)

 

もちろん時代は、

 

大量生産から少々多品種

量から質

 

へと変わってきているが、

 

「価格を抑えて、量を追う」

 

という戦略は「固定費に近いITインフラをいくら使い倒すか」という勝負になっているクラウドサービスにはそのまま当てはまると思う。

 

人力が関わるものは「量を追うと質が低下する」のが常識だが、ITサービスは必ずしもこれに当てはまらない。むしろ、限界費用はゼロに近いので、そこからキャッシュフローが潤沢に生まれれば、その分、さらにインフラ投資が進むという好循環が生まれる。

 

プラットフォーマーはまさにこの公式通りに成長しているように見える。 

 

ーーー

ちなみにヒントをいただいたのはこの本。

朝10時までに仕事は片づける―モーニング・マネジメントのすすめ

朝10時までに仕事は片づける―モーニング・マネジメントのすすめ

 

  

限界費用ゼロ社会 〈モノのインターネット〉と共有型経済の台頭

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操作的思考とTOCクラウド

ロジカルシンキング(論理思考)と呼ばれるものは、下記の2つに大別される。

 

「具体的操作」

「形式的操作」

 

である。発達心理学者のピアジェは人間の思考成長は5段階で進むと提唱した。

 

1段階目:感覚運動期(0~2歳)
2段階目:前操作期(2~7歳)
3段階目:具体的操作期(7~12歳)
4段階目:形式的操作期(12歳~成人まで)

 

ビジネスの世界でいう「ロジカルシンキング」は、ピアジェの3段階目と4段階目をぐちゃぐちゃにして使っていると説明するのは、心理学者&ビジネスコンサルタントの川上真史先生だ。

 

 

組織マネジメントで使われるのは主に「形式的操作」である。

 

問題をロジックツリーでMECEに分解していく作業は、どちらかといえば「具体的操作」に近い。なぜなら、論理の軸が一本だから。

 

しかし実行段階になると「顧客の立場」「営業の立場」「経理の立場」「上司の立場」「世界の状況」「時間軸」など、いろいろ考慮しなければならない「軸」が乱立し、お互いが矛盾することが多い。

 

つまり、あっちを立てれば、こっちが立たないという状況のなかで、(正解ではなく)最適解を見つけることが求められる。

 

これらの判断は右脳、センス、直感、勘、非線形思考など表現されることが多い。

 

では、相反する軸を整理し、最適解を見つける手助けになるフレームワークはないのだろうか。いろいろ探す中で、いまのところ実用面でもっとも優れていると思うのが、TOCfEというシステム思考系ツールの中で紹介されている「クラウド」。

 

あらためて、これが「具体的操作」のための思考ツールだと考えると「なるほど」という感じがする。詳しい説明はこちら。

 

flowone.hatenablog.com

 

川上先生の著書の中で、もっとも読みやすい入門書はこちら。 

20代で大切にしておきたいこと

20代で大切にしておきたいこと