大人の考える技術

若林計志が経営・MBAのフレームワークやマネジメント理論を応用しながら、ビジネス・社会問題を考察します

セミナーや講演会で「質問する力」(4つのチェックポイント)

私自身の講師経験や、社会人ビジネススクール(MBA)の運営を通じた講師と受講生のやり取りを思い出すと、筋の良い質問、価値のある質問には、ある程度の共通点があります。

 

下記にそのポイントをまとめてみました。

 

1)調べればわかる事以上の内容を聞く


せっかくお互いに貴重な時間をとってその場に参加しているので、Googleで検索すれば、すぐにわかるようなことを聞くことにはあまり意味がありません。

例えばユニクロ(First Retailing)創業者の柳井さんが講演されたとして、質疑応答で

「御社の売上はいくらですか?」
「創業何年目ですか?」
「経営理念は何ですか?」

と聞くことにあまり意味はありません。(よほど特別な意図でもない限り)ストレートな物言いをする講師なら「それは自分で調べてください」と回答するかも。


お互いに貴重な時間を使ってそこにいるのですから、「*という経営判断した時にキモになったのは何ですか?」といった、その場でしか聞けないような内容を吟味して聞くと、お互いにとってより価値のある時間できます。

 

2)講師の知識を「試す」のではなく、エッセンスを「引き出す」


たまに

 

「最近***というニュースがありましたが、先生は知っていますか」

 

という類の質問をする方がいます。また質問の形を借りて、自分の意見をとうとうと説明して、結局何が質問したいのかわからない人もいます。

当然ながら、他の参加者は

 

「それ、わざわざここで聞く必要ある?」
「何が言いたいの?」


と思いながら聞いています。

「先生を試したい」

「自分の有能さをアピールしたい(ひけらかしたい)」

「マウントを取りたい」

 

という特殊な意図があるのでもない限り(そういう意図があっても避けた方が良いと思いますが)、セミナー後の質疑応答時間などでは、セミナー内容そのものを深く掘り下げる質問のほうがベターです。

多くの場合、講演者は時間の制約のもとで、泣く泣く内容を割愛したり、かなり要約して説明したりしています。

その部分をつっこんで質問することができれば「よくぞ聞いてくれました!」とばかり、より深い洞察や、その場の雰囲気によって、そこでしか聞けない話を聞くことができます。

 

良い講演は、スピーカーだけが作り出しているのではなく、オーディエンスの力量でその質が何倍にも変わってきます。

 

3)具体的に聞く


「どうしたら先生みたいにすごくなれるんでしょうか?」
「**についてどう思いますか?」

といった抽象的な質問には、抽象的な回答しかできません。(実際のところ、有名人はその手の質問を過去に数千回も聞かれているので、月並みな回答しか返ってこないのが普通ですし、わざとらしい「よいしょ」質問は逆効果です。)

質問するなら、講演者が”本域”を発揮できる(せざるを得ない)するような質問がオススメです。

例えば、

 

「神奈川の**というエリアで席数30の居酒屋を10年経営しています。リピーター客が売上の70%を占めていますが、今度近所に大手の激安居酒屋チェーンAが進出を計画しており、お客さんを奪われることを恐れています。うちも追従して価格を下げようと思っていますが、同じような経験があれば、ご意見をお聞かせいただけませんか?(何かアドバイスいただけませんか?)」


という質問はどうでしょうか? もし講師が過去にそれに近い経験をして克服していたり、プロとして本業でコンサルティングをしている領域であれば、おそらく本気(ガチ)でバリューの高い回答してもらえる可能性が高いはずです。(むしろ、そこでお茶を濁したり、イマイチな回答しかできないのであれば、その程度の実力だと見られるリスクさえあります)

もちろん、講師にとっても回答のハードルが上がるので、考えを整理したり、内省するきっかけにもなり、お互いにとってメリットがあります。

 

4)質問の「手段」と「目的」を意識する


質問やアドバイスを求める時には、手段を目的を意識すると、質問の切れ味が良くなります。

前述の「具体的に聞く」で使った例を使うと、

目的「常連客の客離れを防ぐ」
手段「価格を下げて対抗する」

という構成になっています。質問する時に「客離れ」を防ぐに目的について広く方法を知りたいのか、「価格下げる」という特定の「手段」の是非について聞きたいのかによって、質問のポイントはかなり異なります。

同じように「高齢者の自動車暴走で犠牲になった人はかわいそうだから、高齢者には免許を返納させるべきだと思うが、それについてどう思うか?」という質問には、目的と手段がごちゃ混ぜにに入っており、ポイントがはっきりしません。

回答者がうまく論点を整理して回答してくれる事もありますが、可能であれば、質問者自身が

 

「目的」を達成するために、他に「手段」があるのかを聞きたいのか、それともその「手段」そのもの有効性に限定して聞きたいのか

 

を整理すると、対話の価値がグッとあがります。


いろいろ書きましたが、

 

・考えすぎて何も質問しない

・頭が悪いと思われるが恥ずかしくて黙っている

 

というのが一番もったいないので、上記をガイドラインにしつつも、恥をかきながら実践で質問力を鍛えるのがベストです。(目立つのが嫌だ、と思っても、案外、他人はすぐに忘れてしまいます)

もしあなたが学校運営者や講師であれば、クラスの終わりに、どういう質問が良かったかについて、全員でディスカッションしても良いかもしれません。

「質問力」に関しては、いろいろな書籍が出ていますので、ぜひ検索してみてくださいね。

 

PS

これまでの経験で、リアルで見てすごいと思ったのは、このような方々です。

 

・藤田田(日本マクドナルド創業者)
・稲盛和夫(京セラ創業者)
・大前研一(マッキンゼー&CO 元日本支社長)
・孫正義(ソフトバンク会長)
・柳井正(ファーストリテリング会長)

 

どの人にも、その場の空気を一瞬で変える独特の雰囲気、迫力、魅力があります。その真価を引き出せるかどうかは、オーディエンスの「質問力」にかかっていると言っても過言ではありません。

 

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