大人の考える技術

若林計志が経営・MBAのフレームワークやマネジメント理論を応用しながら、ビジネス・社会問題を考察します

まだまだ迷走するスリランカ

2009年に内戦を終了させる際の捕虜虐殺や、賄賂授受を含めて中国に傾倒しすぎて批判が強まっていたラジャパクサ大統領が失脚し、同氏の実質的子分だったシリセナが現大統領になったのは2015年の話。

 

スリランカは現在、中国に対する膨大な対外債務(年利6% *日本の円借款は約1%なのでかなり高い)に苦しんでおり、歳入の95%を借金返済に充てている。当然ながら返済は難しく、南部の港を99年の契約で中国に貸し出し、実質的に軍港利用される事態に陥っている。

 

なんとなく田中角栄を彷彿とさせるラジャパクサ氏の功績は(大虐殺を含めたかなり凄惨な手で)内戦を終結させたことだが、そのカタにサラ金に手を出した形になっており、その処理に現在国全体が苦しんでいる状態にある。

 

flowone.hatenablog.com

 

反ラジャパクサの旗印の元に、2015年に民衆の期待を背負って誕生したシリセナ政権も最近はかなり迷走してきており、その対応策として、今年10月、なんとかつてのボスであり政敵、そして大統領失脚後も大物政治家として存在感を維持するラジャパクサを首相に指名するという手に出た。

 

元外交官の岡崎久彦氏によれば、中国が賄賂を使ってシリセナを買収したという話もあるが、真実は闇の中だ。

昨年7月、中国政府からスリランカ政府に対し、20 億元(約2億9000万ドル)の無償資金が提供され、シリセーナ大統領が個人的に受け取ったという噂がある。それが今回の政変劇につながった可能性は否定できない。今後とも、中国がスリランカに対し陰に陽に種々の工作を仕掛け、取り込みを図ることは、十分に予測されることである。

 

wedge.ismedia.jp

 

ただ、ここは民主主義がうまく機能し、議会はラジャパクサ氏の不信任案を2回も可決。裁判所も同氏の権限停止を命じていたにもかかわらず、ラジャパクサ氏と、不法に解任された首相が両方いるという状態がずーっと続いていた。

 

ちなみに、シリセナ氏に勝手に解任されたラニール・ウィクラマシハ氏は、私が2000年ごろスリランカに駐在していた頃から活躍する大御所政治家で、UNP党を率い、内戦当時は穏健派として、抗戦派だったチャンドリカ・クマラトゥンガ元大統領(PA党)と敵対し、LTTEタミールタイガー)と和平工作を色々としていた人物だ。

 

www.jiji.com

今回ラジャパクサが首相を辞任し、やっと騒動が収まった。これによって将来内戦が復活するような可能性はないものの、まだまだカントリーリスクが高い国である。

 

ただしリスクがあるだけチャンスもある。

 

当地はビジネスだけでなく、政治的背景もあってインド系&中国系企業を中心としたインフラの建設ラッシュだ。一昨年は、私も不動産投資のお誘いに乗って、現地を数十年ぶりにおとづれたが、大きなポテンシャルを感じた。


ちなみに第2次世界大戦後のサンフランシスコ講和会議にて、スリランカが対日賠償請求権の放棄を国連で主張しなかったら、アメリカ、ソ連等の戦勝国は、日本各地を「租借地」として実効支配していた可能性が極めて高い。だから、日本はスリランカに大きな借りがある。

 

だからこそ、、戦後吉田茂最恵国待遇をスリランカに与えたのであり、今上天皇が来訪しているのだ。

 

日本とスリランカの関係 - Wikipedia

 

いづれにしろ、スリランカは政治的にも経済的にもウォッチしていきたい国である。

システム開発:「カレーを作ること」と「カレーの材料を作ること」

かれこれ、2年ぐらいかけて、オンラインコミュニティのマネジメントシステム「フローパッド」を作っています。

 

もともと完成形のイメージは10年前にはすでにできていたのですが、実際にシステムの作り込みをしてみると一筋縄にはいきません。

 

例えば、

 

クラウドサーバーの確保、ドメインの設定、DBの設計、システムの作り込み、レスポンシブ画面の作り込み、iOSおよびAndroidアプリの作成、App Storeへのアカウント取得、申請、リジェクト対応、バックアップサーバーの追加設置などなど、想像していた以上にインフラの整備が大変です。

 

さらにプライバシーマークの取得、PHPのバージョンアップ対応やサーバーのレスポンススピードアップのためのmemcash サーバーの増設など、気づいてみたら15近くもサーバーが動いています。 

 

いろいろなパートナーの協力を得ながら、今年12月になって、やっとメジャーなパーツの作り込みが終わり、あとは管理画面の作り込みや、もともと想定していたゲーミフィケーション機能や、AI機能の実装にシフトしていけそうな動きになってきました。

 

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FlowPAD画面

この苦労は言ってみれば、有名カレー店で修行した人が、自分のこだわりカレーを追求すべく、自分でカレー店を起業したのに、家賃交渉やスタッフのシフト管理、経理仕入れ先の確保(場合によって自家栽培による野菜の栽培)、各種機材の購入、資金ぐり、などで大量の時間を取られてしまい、

 

なかなか本来やりたかった<味の探求>に時間を使えないのと同じかも知れません。

 

本来のコアコンピタンス以外のところは、サクッとアウントソーシングできれば良いのですが、なかなかそうもいきません。それだからこそ、参入障壁になって良いのもしれませんが。

 

またFacebookやらSlackなどが、無料でどんどん優れた機能を出してくるので、そことぶつからないように、差別化する舵取りもけっこう重要です。

 

ということで、今年いっぱいは、まだまだインフラの作り込みを行い、来年から本格的に展開していこうと、仕込んでおります。

募金のマーケティング

歳末になると支援団体が募金を募っているのをよく見かける。

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募金

若かりし頃、NGO業界に片足を突っ込んでいたので、UNHCRやWFP、UNICEFなどが一生懸命活動されているを見ると募金したくなる。しかし国連系団体は、現金を一切受け付けずに、月額サポート制への申し込みを勧めるケースが多い。もちろん安定した支援活動をするには、安定したキャッシュが必要で、そのためにはスポットのお金ではなく、安定した収入源を得たい気持ちはすごーくわかる。

 

しかし気軽に100円とか、500円を募金したい人もかなり多いのではないだろうか。そのオプションを設けずに、月額1000円から、、みたいな購読型オプションしか設けないのは、マーケティング的にどうなんだろうと、いつも思う。

 

極端な話、1万円を現金(もしくは電子マネーやクレジット決済でもいいと思う)で募金してもらえば、月額800円で1年サポートしてもらうのと変わらない。

 

そしてメルアドをもらっておいて、定期的にニュースレターを送り、しつこくないぐらいにプッシュすればよいのではないだろうか?

 

しばらく業界から離れているのでなんとも言えないけど、一般のNGOはやっていることなので、国連系ができないわけはないと思う。(本当に活動コストと収益の関係性を十分に分析した結果なのだろうか。何か内規や法律的な縛りがあるのか。いつも気になる。)

 

 

売れ残るほど儲かる? キャシュフローと損益計算書のズレ

以前、事業部の総責任者をやっていた際に、もやもやと違和感を感じていたことがある。それは「売上」と「利益」の関係である。

 

仮に売価1万円の動画DVDの販売を企画したとして、ロイヤリティを含めた製造原価が1枚あたり5000円だったとする。また間接部門から配布される固定費(Attributable Fixed Cost)が一律300万円だとする。

 

もしDVDを1000枚作り、ぴったり1000枚売り切ったとすると、

 

損益計算書(PL)では

売上:1000万円

原価:-500万円

固定費:-300万円

--------------------

利益:200万円

 

となる。

 

ではDVDを3000枚作り、1000枚売れる(2000枚は売れ残り)とすると、損益計算書(PL)はどうなるかといえば、

売上:1000万円

原価:-500万円

固定費:-300万円

--------------------

利益:200万円 

 

で利益額は同じだが、おまけで在庫(=BS上の資産!)が2000枚増えている状態となる。(PLでは、売れた商品分の原価しか計算しないので。)

 

通常DVDはマスター(原盤)を作るコストが高く、量産コピー自体は安いので、たくさん作れば作るほど、原価は安くなる。なので実際はこんな感じになる。

 

売上:1000万円

原価:-300万円 ←-500万円

固定費:-300万円

--------------------

利益:400万円 

 

つまり、PLだけを考えれば、売れようが売れまいが、とにかくじゃんじゃか作る方が、”利益”を増やすには有効だ。 

 

私の担当する事業部では、年次の評価がPLのみで行われていたので、売り逃がしのリスクをとるぐらいなら、多めに在庫を作っておいて、最悪余ったら廃棄する方がPL上は得だというKPIになっていた。

 

しかも在庫をたくさん作れば、BS上の資産も増えている状態になり、その売れ残りの2000枚を次年度に売れば、PL上の利益も出る。 しかし、実際のキャッシュは3000枚作れば、

 

原価0.5万円×制作数3000枚=1500万円

 

出て行っていることになるので、手元のキャッシュは

 

売上1000万円-1500万円=-500万円

 

とマイナス(赤字)なのだ。

 

つまりPL上の利益400万円と、キャッシュ上の赤字-500万円の間には900万円の差があるのである。

 

私は直感的に売り上げ見込みぴったりにモノを作る方が良いと思っていたが、PL上では売れない在庫を作るほど儲かり、一方でキャッシュが減るのは変だといつも思っていた。それを、当時の会計担当者と話し合ったが、PLで評価するの一点張りだった。

 

もし売れ残り在庫2000枚のうち500枚が売れれば、キャッシュは

 

売上1500万円-原価1500万円=0円

 

でありキャッシュ的にはトントンとなる。しかし、旬を過ぎた在庫が売れる保証はない。したがって資金繰り的は、キャッシュフローを見ていないと会社は危ない。

 

もちろんこの矛盾を解決するために、会社全体としてはBS(貸借対照表)、PL(損益計算書)、キャシュフロー計算書の財務3表があるのだけど、それらを無視して事業部の評価をPLだけでするのはリスクが高いのは明らかだし、間違っているのはいうまでもない。

 

もっといえば、固定費を作成したDVDの枚数で按分していたとすると、売れ残るほど固定費が減って、見せかけのPLの数字はもっと良くなってしまう。

 

数字のマジックである。事業部の評価をどのKPIで行うのか。深い問題である。

「なぜ」が大事! ゴールデンサークルとカチッサー効果

私の大好きなTED動画にサイモン・シネックの「優れたリーダーはどうやって行動を促すか」があります。

 


【TED】サイモンシネック 優れたリーダーはどうやって行動を促すか SimonSinek

 

ポイントはメッセージを「WHY」からスタートすること。

 

で、これと一緒に見ると味わい深いのが、名著チャルディーニの「影響力の武器」で紹介されている

 

カチッサー効果

 

です。

 

WIKIPEDIAから引用します。

心理学者のエレン・ランガー(Ellen J. Langer) が実験をおこなった。被験者がコピー機の順番待ちの列の先頭へ行き3通りの言い方で頼む。

  1. 要求のみを伝える:「すみません、5(20)枚なのですが、先にコピーをとらせてもらえませんか?」
  2. 本物の理由を付け足す:「すみません、5(20)枚なのですが、急いでいるので先にコピーをとらせてもらえませんか?」
  3. もっともらしい理由を付け足す:「すみません、5(20)枚なのですが、コピーをとらなければいけないので先にコピーをとらせてもらえませんか?」

枚数が5枚の場合、要求のみのときの承諾率は60パーセントであるのに対し、本物の理由を付け足したときの承諾率は94パーセントであった。しかし、もっともらしい理由を付け足したときでも、承諾率は93パーセントに達した。

枚数が20枚の場合、要求のみのときの承諾率は24パーセントであるのに対し、本物の理由を付け足したときの承諾率は42パーセントであった。もっともらしい理由を付け足したときの承諾率は24パーセントにとどまった。

人に何かを頼む時に単に「○○してもらえますか?」と言うよりも「○○なので、○○してもらえますか?」と理由をつけると承諾されやすい。ささいな頼みごとの場合は、頼みごとの内容とあまり関係のない理由、こじつけでも承諾されやすい。

 

どちらにしても、大きなリクエストを相手にする際に「WHY」が重要な役割を果たすということです。

 

影響力の武器[第三版]: なぜ、人は動かされるのか

影響力の武器[第三版]: なぜ、人は動かされるのか

 

 

 

 

 

 

 

心理的リアクタンスと「もれ聞き効果」

「これをぜひ買ってください」

と他人に強制されそうになると、かえって買いたくなくなるということがよくある。(私なんかはこのパターンだ)

 

人は「自由をうばわれる」「自由を制限される」と直感的に感じると、それに苦痛を感じ、自由を回復するような行動をとる衝動にかられる。これを「心理的リアクタンス」という。

 

したがって、何かを買ってもらおうと思ったら、ユーザーが「自分で選んでいる」「自分で状況をコントロールしている」という体裁をとりつつ、うまくオススメする必要がある。

 

そのための方法の一つは

 

「選択肢を6個程度に絞る」

 

という方法だ。売り手が提示する選択肢が少なすぎる(例えば2つ)と、どうしても「心理的リアクタンス」が発動してしまう。かといって、10個も20個もあると、選択するのに心理的コストがかかりすぎ、選択自体を放棄してしまう、と「選択の科学」の著者であるアイエンガー博士はいう。

 

だから適度に絞って、相手が選びやすい状況を作ってあげる必要があるのだ。

 


シーナアイエンガー 選択しやすくするには


シーナ·アイエンガー - 選択の科学 Sheena Iyengar - The art of choosing

 

心理的リアクタンスを下げる次の方法は「もれ聞き効果」だ。

 

「Aを買ってください」と面と向かって直接説得されそうになると、買い手には心理的リアクタンスが働くが、いわゆる口コミなので「Aっていいらしいよ」(例えば、あの映画って面白いらしいよ)と聞くと、心理的抵抗が少なく、受け入れやすい。

 

お店が「さくら」を用意したり、バンドワゴン効果を狙うのも、心理的リアクタンスを回避するうまい方法だ。

 

ただし、ユーザーが「いずれにしても、必要だからAを買わないとだなんだよなあ」と思っているケースでは、背中をぽんと押して欲しい場合もある。

 

その際は「これは絶対にいいので買って見てね」と売り手に言われた方が、楽な場合もある(「勧められたから買った」というエクスキューズができるからだ)

 

したがって、相手のリアクションを見ながら、どれぐらいの距離感で商品やサービスを進めるのかを考える必要がある。

 

人間の心理は難しいが、面白い。

 

 

 

交渉の鉄則は相手のニーズを見極めること

北朝鮮で日本人の独立系ジャーナリストが拘束されたというニュースが流れています。概要としては、ヨーロッパ系の旅行代理店のツアーで入国して、そのまま消息が途絶えているようです。

 

シリアでも同様にジャーナリストの安田さんが拘束され、その映像が公開されて波紋を呼んでいます。

責任論はさておき、それぞれのケースで水面下で交渉が行われているのは間違いありません。もちろんシリアにしても、北朝鮮にしても、日本政府にそれほど強いパイプラインがあるとは思えないので、細いルートを手繰ってコンタクトを試みようとしている状態であることが推測されます。

 

この種の交渉において重要なのは、3つのポイントです。

 

1)交渉相手が達成しようとしている「目的」(ニーズ)を見極めること

2)面子を潰さないようにそれを満たすこと

3)合意の中で、こちらのニーズが自動的に満たされる条件を入れること

 

当たり前ですが、相手のニーズが宗教的なもの、精神的なものであれば、それを十分に理解する必要があります。宗教色が強い国に住んだり、仕事をしたことがある人は誰でも知っていますが、宗教が生活の中心にあって、命より優先する国は多くあります。

 

それを十分に理解せずに、冒涜してしまうと、その代償は大きいのです。

 

私自身もかつて紛争地で活動した経験がありますが、知ってか知らずか、現地で横暴に振る舞う外国人を少なからず見かけました。もちろん宗教色がそれほど強くない国であれば、現地の文化にレスペクトを示さない態度も大目に見てもらえることがほとんどですが、それは例外的と考えた方が無難です。

 

宗教的感度の低さが裏目に出た良い事例は911同時多発テロ事件です。この事件の実質的な指導者と言われたアルカイダの司令官であり、サウジの名家出身のビン・ラディンは、アメリカとはアフガン戦争で同盟関係にありました。ところが湾岸戦争を巡って、アメリカがサウジアラビアを実質的に冒涜する行為を行なってしまったがために、くすぶっていた反米感情を強く刺激しました。

 

ウサーマ・ビン・ラーディン - Wikipedia

 

ただし超一流のブレーンを抱えるアメリカ政府が宗教的な無理解によりサウジアラビアを冒涜したかといえば、そこは「?」です。実際のところは、当時のブッシュ大統領が各機関からの情報を軽く見て無視したか、自分の政治的野望を優先してしまったがために、起こってしまったというのがリアリティに近いでしょう。

 

いずれにしても国際交渉においては、宗教的な背景に十分すぎるほど注意を払う必要があります。そして宗教的・文化的背景に十分敬意を示した後で、実施的な金銭的な条件交渉を行うことになります。

 

交渉相手にしても、背景にいる仲間から宗教より金銭を優先した「裏切り者」(売国奴)扱いされ、支持を失う(背中から撃たれる)リスクは犯したくないですから、面子を十分に考えた交渉が必要です。

 

よく知られた話ですが、2002年に小泉首相北朝鮮を訪朝を成功させたのは、戦後補償として同国が要求していたウン兆円を、経済協力金として支払うという交渉が行われたからです。決してモラルから行われた交渉でも、北から積極的に拉致被害問題を解決しようとした結果ではありません。

 

ただし金銭的な交渉の背景が表立ってあまり出てこないのは「北朝鮮の面子を守りたい」という日本政府の意向をメディアが「忖度」したが、実質的にそういう依頼が報道各社に対して行われたからです。

 

現在シリアおよび北朝鮮での日本人拘束問題において現在進行形で行われている交渉でも、表の交渉と裏の交渉が同時並行で行われているはず。

 

良い結果になることを祈るばかりです。