大人の考える技術

若林計志が経営・MBAのフレームワークやマネジメント理論を応用しながら、ビジネス・社会問題を考察します

売れ残るほど儲かる? キャシュフローと損益計算書のズレ

以前、事業部の総責任者をやっていた際に、もやもやと違和感を感じていたことがある。それは「売上」と「利益」の関係である。

 

仮に売価1万円の動画DVDの販売を企画したとして、ロイヤリティを含めた製造原価が1枚あたり5000円だったとする。また間接部門から配布される固定費(Attributable Fixed Cost)が一律300万円だとする。

 

もしDVDを1000枚作り、ぴったり1000枚売り切ったとすると、

 

損益計算書(PL)では

売上:1000万円

原価:-500万円

固定費:-300万円

--------------------

利益:200万円

 

となる。

 

ではDVDを3000枚作り、1000枚売れる(2000枚は売れ残り)とすると、損益計算書(PL)はどうなるかといえば、

売上:1000万円

原価:-500万円

固定費:-300万円

--------------------

利益:200万円 

 

で利益額は同じだが、おまけで在庫(=BS上の資産!)が2000枚増えている状態となる。(PLでは、売れた商品分の原価しか計算しないので。)

 

通常DVDはマスター(原盤)を作るコストが高く、量産コピー自体は安いので、たくさん作れば作るほど、原価は安くなる。なので実際はこんな感じになる。

 

売上:1000万円

原価:-300万円 ←-500万円

固定費:-300万円

--------------------

利益:400万円 

 

つまり、PLだけを考えれば、売れようが売れまいが、とにかくじゃんじゃか作る方が、”利益”を増やすには有効だ。 

 

私の担当する事業部では、年次の評価がPLのみで行われていたので、売り逃がしのリスクをとるぐらいなら、多めに在庫を作っておいて、最悪余ったら廃棄する方がPL上は得だというKPIになっていた。

 

しかも在庫をたくさん作れば、BS上の資産も増えている状態になり、その売れ残りの2000枚を次年度に売れば、PL上の利益も出る。 しかし、実際のキャッシュは3000枚作れば、

 

原価0.5万円×制作数3000枚=1500万円

 

出て行っていることになるので、手元のキャッシュは

 

売上1000万円-1500万円=-500万円

 

とマイナス(赤字)なのだ。

 

つまりPL上の利益400万円と、キャッシュ上の赤字-500万円の間には900万円の差があるのである。

 

私は直感的に売り上げ見込みぴったりにモノを作る方が良いと思っていたが、PL上では売れない在庫を作るほど儲かり、一方でキャッシュが減るのは変だといつも思っていた。それを、当時の会計担当者と話し合ったが、PLで評価するの一点張りだった。

 

もし売れ残り在庫2000枚のうち500枚が売れれば、キャッシュは

 

売上1500万円-原価1500万円=0円

 

でありキャッシュ的にはトントンとなる。しかし、旬を過ぎた在庫が売れる保証はない。したがって資金繰り的は、キャッシュフローを見ていないと会社は危ない。

 

もちろんこの矛盾を解決するために、会社全体としてはBS(貸借対照表)、PL(損益計算書)、キャシュフロー計算書の財務3表があるのだけど、それらを無視して事業部の評価をPLだけでするのはリスクが高いのは明らかだし、間違っているのはいうまでもない。

 

もっといえば、固定費を作成したDVDの枚数で按分していたとすると、売れ残るほど固定費が減って、見せかけのPLの数字はもっと良くなってしまう。

 

数字のマジックである。事業部の評価をどのKPIで行うのか。深い問題である。