慶應義塾大学で教鞭をとられている横田絵理教授と、監査法人に勤務されている金子晋也氏の共著です。
マネジメント・コントロール -- 8つのケースから考える人と企業経営の方向性 (2014/03/14) 横田 絵理、金子 晋也 他 |
「慶應」で「マネジメントコントロール(MC)」といえばKBS(慶應ビジネススクール)の山根節先生が頭に浮かびますが、今回の本は、同じ慶應で使われている8つのビジネスケース(一部はBooksParkで購入可)を中心に、その解説を含めて、分かりやすくMCの活用事例がまとめられています。
「トヨタ生産方式(TPS)」や「アメーバ経営」を取り上げられているのは素晴らしく、これらが日本で独自の発展を遂げたマネジメントコントロールであることが再確認できました。
マネジメントコントロールを考える上で「経営」の全体像を簡単にまとめてみると下記のようになります。
面白いのは、「戦略」レベルでは科学的な分析手法や、ごちゃごちゃした現実をスパッと切ってみせるフレームワークや多数存在しているにもかかわらず、実行レベルに落ちるほど、一般的には「経験則」とか「精神論」の色合いが強くなる事。(で、最後には「死ぬまで頑張れ」みたいな変な話になってしまう。)
なぜそうなるかと言えば、理詰めで動かせるほどで現実世界は合理的ではないし、個別性が強くなるからです。そういう理由もあって「ハーバードでは営業を教えない」みたいな話になるんですね。
そんな中でマネジメントコントロール(MC)の価値は、一見バラバラに見える各会社の実行ノウハウを、出来る限り科学的に体系化している点です。特にこの本では、代表的な日本企業で使われているMCのエッセンスを横串を指して一覧できるので便利です。
また後半ではGoogleのケース分析を通じて、戦略に縛られないマネジメントコントロールといった新しい方向性やあり方を提示されているので、多いに参考になりました。
個人的には、トヨタ生産方式などのエッセンスを含みながら独自の発展を遂げ、汎用的な知識体系にまで昇華した
「TOC(制約理論)」
や、ハーバード大の故アンソニー教授(MCの開発者)だけではなく、その弟子のマーチャントらによるマネジメントコントロールの分類に言及されても面白かったかなと思いますが、この本はこの本で大変良書だと思いました。(ちなみに、「戦術→指標→行動」という分類もTOCの一部です。)
この本に収録されているケースをバラバラに買っていた身としては、何ともお得な一冊だと思います。
特に英語×MBAレベルでマネジメントコントロールが学びたい方は、ボンド大学(Bond-BBT MBA)がオススメです。
もっと入門編としては拙著もオススメ(汗)
余談ながら、 実行レベルを科学しようとする「ヒューマンアナリティックス(Human Analytics)」「ピープルアナリティックス(People Analytics)」の研究が進んでいるので、マネジメントコントロールは今後どんどん進化しそうな予感。
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