大人の考える技術

若林計志が経営・MBAのフレームワークやマネジメント理論を応用しながら、ビジネス・社会問題を考察します

中央集権から自律分散への組織変革(中堅スーパー・カスミの例)

茨城を中心に150店を展開するスーパー「カスミ」が中央集権の組織を改革した例は、マネジメントコントロールを理解するのにうってつけです。

同社会長の小浜氏はインタビューで下記のように言っています。

以前から経営理念や哲学のようなものはあったが、50年の間受け継がれない、浸透しないまま。そもそも、それまで当社は『三方わるし』でした。チェーンストアというのは科学的管理法に沿った典型的な軍隊型組織で、マニュアルで管理されるし、現場の店長に対しては不要な指示も多く、統制されるのに慣れてしまった従業員たちには『言われたことをやっときゃいいだろう』という感覚が染みついています。こういう状態から従業員を解放し、近江商人のような『三方よし』に切り替えたい。」(「50年こり固まった体質を現場から変える--関東のスーパー・カスミの小浜会長岡田靖 怒賀新也 2013年04月18日 ZD News)

つまり、チェーンストアと言うのは伝統的に行動コントロール(Action Control)が強い業界だったのです。そして、このような「軍隊式組織」が行き過ぎると、最近では「ブラック企業」と呼ばれたりします。

小浜氏は、このような中央統制型の組織を、各店舗の店長が自律して「経営者」として判断し、独自の判断で動ける組織に変えたのです。

ただし、このような改革は実際には簡単ではありません。なぜでしょうか。それは社内で抵抗があるからです。

例えばこれまで、本部は各店に対して命令する立場にいました。ところが本部の権限を現場に大幅に委譲するとなると、本部は各店から上がってくる要望を、実現するために動くという役割に変わります。

拙著でも説明しましたが、行動コントロールで、人を思い通りに動かせる力を持つのは、一種の麻薬的なところがあり、一部のマネージャーはその魅力に溺れて暴走します。

「本部側の人間が良かれと思っている施策があっても店舗が自主的に実施しない判断をしたなら、その判断を尊重しなければならない。もちろん助言や議論は行うにしても、命令で必ず言うことを聞かせられるわけではないのだ。こうなると、本部側には「仕事を奪われる」という危機感が生じる可能性が高い。」(同記事より)

社長/会長の命令なので、本部が表立って異を唱えることはないでしょうが、実際はこのような改革を快く思わない幹部社員によって、改革は葬り去られることはよくあります。小浜会長はこれを見越して、いろいろな手を打っています。

その中でも面白いのは「BCS(バランストスコアカード)」を導入したこと。マネジメントコントロールシステムの理論体系の中では、KPI(キーパフォーマンスインディケーター)によって、組織を動かす「結果コントロール」と、「環境コントロール」(さらに詳しくはCultural Control) のコンビネーションにあたります。

このBCSを使って、幹部社員の評価方法を、各店舗を支援することに変更したのです。抵抗勢力が抵抗する根源的理由は、多くの場合、人間性とか悪意ではありません。既得権益を奪われ、存在を否定されることを恐れるがゆえに抵抗するのです。だからこそ、真の改革を成功させるには、新しい評価方法をセットにするのが必須なのです。