大人の考える技術

若林計志が経営・MBAのフレームワークやマネジメント理論を応用しながら、ビジネス・社会問題を考察します

問題解決の2つの潮流:ピラミッドストラクチャーとシステム思考

DeNA創業者として活躍する南場智子さんの著書「不格好経営」には、考えさせられる記述がいくつもあります。


不格好経営―チームDeNAの挑戦不格好経営―チームDeNAの挑戦
(2013/06/11)
南場 智子

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南場さんは戦略コンサルティング会社として世界トップクラスのマッキンゼーでパートナー(共同経営者=トップの地位)まで上り詰めた人であり、戦略立案=クライアントの問題解決のエキスパート中のエキスパートです。

その南場さんが「コンサルタントと事業リーダーの違い」についてこう指摘しています。

「優秀なコンサルタントは、間違った提案をしても死なない立場にいるからこそ価値のあるアドバイスができる事を認識している」(P203)

「自分が経営者だったらもっとうまくできるんじゃないだろうか。(中略)私だったら・・。もしそんなふうに感じているコンサルタントが他にもいたら優しく言ってあげたい。あなたはアホです。ものすごい高い確率で失敗しますよ、と」(P16)

コンサルティング会社は皆経営コンサルタント、いわば単能工の組織であり、そこでの優秀さの軸は主にロジカルシンキング(論理的思考能力)だ。しかしDeNAを立ち上げてすぐに、会社はロジカルな人間だけでは少しも進まない事が分かってくる」(P210)

単能工」って言いきっちゃうところがスゴいと思いますが、確かに戦略立案/ロジカルシンングは経営のほんの一部にすぎません(もちろん極めて重要な一部ですが!)

3yousoでは他に何が必要かと言えば、人間的魅力や、志、コミュニケーション能力であり、著名な経営学者H.ミンツバーグの言葉を借りれば、「アート(センス)」と「クラフト(経験)」(右図参照)になります。

世の中には「問題解決手法」と言われる方法がいくつかありますが、大きくは2つのカテゴリーに分けられます。

一つはマッキンゼーやボスコン(BCG)など戦略コンサルティング会社で定番の

「ピラミッドストラクチャー」(イッシューツリー)

をベースにした分析/分解型の問題解決法です。

もう一つは、ここ10年ぐらいで一気に存在感を増してきている

「要素間の関係性」

に着目したシステム思考型の問題解決です。

このタイプでは、MIT教授で「最強組織の法則」の著者ピーター・センゲやTOC(制約理論)のゴールドラットが有名です。(TOCではシステム思考型の問題解決を思考プロセス(TP/TOCfE)と呼んでいます)

結論から言えば「経営(マネジメント)」というのは「分解」して「統合」するという作業の繰り返しなので、この2つのやり方を組みわせて使うのが最も効果的ではないかと思います。

では少し具体的に考えてみましょう。

「新製品が売れない」という問題がある場合、一般的には「4Ps」というマーケティングで定番のフレームワーク(思考の型)がよく使われます。

・商品(Product):商品は市場ニーズとマッチしているか

・価格(Price):価格は適正か

・販売方法(Placement):販売チャネルに改善の余地はないか?

・広告(Promotion):広告はターゲット顧客にリーチしており、魅力を訴求できているか

の4つで切り分けていき、商品なら商品のカテゴリーでさらに問題点を細かく分類していきます。そして問題の原因を特定していく訳です。これはピラミッド型で図示する事ができます。

▼参考:「ピラミッドストラクチャーとは」

 http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20100827/243417/

要素の切り分け方には下記のルールがあります。

1)分解した要素同士が「MECE(もれなくだぶりなく)」の関係になっている

2)大きい分類から細かい分類への流れは 「Why so?(なぜそういえるのか)」という答えになっており、逆に複数の小さい分類から大きい分類への流れは「so what?(だから何が言えるのか?)」という答えになっている

この方法のメリットは本質的な問題点が発見しやすく、強いメッセージが出しやすいことです。ただその一方で欠点も抱えています。

それは

「要素還元主義」

とよばれるもので、各要素間の関係性がバラバラにされてしまう事です。

通常「問題」というのは独立して存在していません。

要素間で複雑な因果関係が成立している事が多く、お互いに影響し合い、フィードバックしあいながら、ある種の「エコシステム(循環型のループ構造)」を形成しています。

したがって実際に問題解決しようとしてどこかの要素を無理に変えようとしても、エコシステムの中で元に戻ろうとする力(復元力)が自然に働きます。(例えば「禁煙」「早起き」など、なんでも良いのですが、現在の状態を変えようとすると、変えない方が毎日の生活上で都合の良い事(要素)がどんどん出てきて、元に戻ってしまいます。)

組織改革でいえば、現状を変えようとする人は必ず大きな抵抗を受け、排除される動きが起こります

また強引に一つの要素だけを変えると新たな問題が起こります

例えば、高速道路が渋滞して大気汚染が酷いという問題を解決するために、「道路幅を広げる」という問題解決をした結果、数年後に交通量が増えて以前よりかえって大気汚染が進む

といったことがあります。

上記でも分かるように、一つの要素に注目して解決しようとすると、巡り巡ってシステム全体に影響を与えてかえって問題を悪化させる事があるのです。

まさに「よかれ」と思ってやったことが逆効果になるという訳です。

マーケティングの例で言えば、

新製品が売れない背景には、市場やライバルなどの外部要因以外に、組織内で営業と商品開発の対立があったり、開発予算が不十分だったり、経営理念が不明確で、プロダクトアウト的に商品が開発されているなどの可能性があります。

図示すると下記のようになります。(実際もっともっと複雑で、会社により事情が違います)

関連図

ポイントは問題は独立して存在しているのではなく、重層的にお互いに影響している点です。したがって、仮に「商品のクオリティに問題がある」と分かったとすると、その周りにどんな因果関係が成り立っているのかを解明し、絡まった糸を解きほぐすように問題を解決していくしかないのです。

よく

コンサルティング会社に頼んだら会社が悪化した(潰れた)

といった批判があるのですが、それが半分正しくて、半分正しくない理由は、冒頭で南場智子さんの言葉として紹介した「コンサルティング会社は基本的に「単能工」である」という言葉に集約されます。

経営者の仕事は、パーツに「分解」され、解決案が示された問題を、最適な形で「合成」(インテグレート/シンセサイズ)し、実行することであり、外部の戦略コンサルティング会社は、そもそも経営の部分的な役割しか負っていないのです。

そして、冒頭でご紹介した南場さんの

「優秀なコンサルタントは、間違った提案をしても死なない立場にいるからこそ価値のあるアドバイスができる事を認識している」

という言葉に象徴されている通り、多くの戦略コンサルタントは、実行を想定してしないからこそ自由度があるのであり、それが提供価値なのです。(政治の世界で与党が野党になった瞬間、歯切れよく好きなことを言えるのと同じです。)

もし「全てを問題解決できます」というコンサルタントがいれば、それは単なる思い上がりです。南場さんの言葉を借りれば。

hammerまたイッシューツリー的な問題解決の限界について、その権化であるマッキンゼーで日本支社長を務められた横山禎徳(よこやま・よしのり)さんも、著書「循環思考」で詳しく解説されています。

横山氏曰く、トンカチを持った子どもは、なんでもクギに見えてしまうのと一緒で、イッシューツリーで問題をバラバラにして解決する方法に慣れすぎると、なんでもそれで解けると思ってしまうのです。しかし組織の本当の問題を解決する時は全体を「システム」として捉え、それをリ・デザインする力が必要なのです。


循環思考循環思考
(2012/03/30)
横山 禎徳

●どちらを使うか?

さて2つの問題解決の特徴を簡単にご紹介しましたが、どちらが正しい、優れているというものではなく、解決したい対象(外部環境の問題なのか、人間の感情が絡む組織内の問題なのか)に応じて使い分けるのがベストだろうと考えています。

具体的な目安としては、

・組織「外」の問題/機械的に問題を除去できる場合には、主にピラミッドストラクチャーを使う

・組織「内」の入り組んだ問題(特に人間関係が絡むもの)を考える場合にはシステム思考型を使う

という事です。

特に気をつけたいのは、組織内部の問題解決にいきなりピラミッドストラクチャーを使わないことです。

要素に切り分けていくと、「こいつが悪い」という犯人さがしになりやすく、かえって組織はメチャクチャになってしまうからです。

もちろん組織外の問題でも、実際はいろいろな関係性の中で成り立っているので、システム思考型が使えます。

したがって、ピラミッドストラクチャーでコアの問題に当たりをつけた後で、問題解決(実行)のフェーズでシステム型を取り入れるのがベストミックスであろうというのが現時点での結論です。

両方使いこなせると最強ですね!

*余談ながら心理学でも「分析型」と「ゲシュタルト型(全体型)」がありますが、その分類に似ているかも知れません。