Eラーニングには大きくいって下記の3つのタイプがあります。学習目的に応じて、これらのタイプをうまく使いこなす事が求められます。
(1)知識の習得を目的としたもの(従来の紙教材の延長線上にあるもの)
(2)情報を整理するフレームワーク(思考の「型」)や、やり方のコツ/スキルの習得を目的としたもの
(3)新たな知識を創造することを目的としたもの
(1)は、基本的には「自己学習」と「反復学習」による知識の暗記を前提としています。
●具体例:→ 小・中・高校の学習。資格試験。
●方法 :→ 分かりやすい図解。練習問題(クイズ)と解法の解説。
●条件 :→ 絶対的な正解がある(先生がそれを知っている)
学習者によってレベルがまちまちなので、とにかく”分かりやすさ”を高める事がキーポイントです。また単調な繰り返し学習になりがちなので、達成感を刺激するようなゲーム要素*(例えばランキングやラジオ体操のスタンプカードのようなもの)を入れ、モチベーションが継続できるような仕掛けづくりが必要です。(特にEラーニングにとって、モチベーション維持はキーポイントです。)
*「ゲーミフィケーション」(Gamification)の解説はこちら。
(2)は、情報の整理術や、マーケットの分析方法など「思考の型」を教えるものです。こちらも「自己学習」と「反復学習」が主に使われます。ただし(1)に比べて、正解が絶対的ではない点と、すでにそれぞれの人が自己流でやっていることなので、学習者がそれなりに使ってみて「腑に落ちる」「ハラに落ちる」という感覚を持てることが必要です。そのために、ディスカッションが使われる事もあります。
●具体例:→ 営業トーク。コミュニケーション術。思考フレームワーク(4Ps, 3C, STP, SWOTなど)
●方法 :→ 課題による反復トレーニング。実践での応用と内省
●条件 :→ ハラ落ちして、自分の思考回路を変える事
注意点として、理解度確認テストなどで杓子定規な答えを強要すると反発を招く事が挙げられます。例えば、営業のやり方などは、いかにカリスマ講師が教えても、それが唯一絶対の方法ではないので、その点に対する学習者のモヤモヤ感を解消でしないで、クイズ形式で一律に理解度を図る(一方的に講師の正解を押し付ける)には限界があります。
その点、「内省」(自分の中で落とし込む)をプロセスを促す意味で、自分の考えを述べてもらう感想文/フィードバックを求めるのは有効な方法です。とにかく
「そういうやり方もアリだな」
「まあ、ちょっと使ってみるか」
と思ってもらう事です。
(3)は、答えが決まっていない課題についてみんなで意見を寄せ合いながら、新しい知識や解決法を見いだしていくタイプの方法です。欧米では初等教育からディスカッション方式のクラスが取り入れられていますが、日本の学校でも徐々にこの方式が取り入れられつつあります。
●具体例:→ MBAのクラスディスカッション(ケース学習)、ロースクール教育(法科大学院)っ、実践形式の戦略立案研修など
●方法 :→ ディスカッション形式・学習コミュニティ(ソーシャルラーニング)
●条件 :→ 唯一の正解がある訳でないので、参加者の貢献意欲が必要
そもそもはっきりした正解がないのですから、先生がやるのは、考えを引き出すためのヒントを出したり、思考を進めるための方法論を提示することに絞られます。具体的には、ファシリテーションによる意見の拡散と収束、図式化、合意形成や、「学習者同士がお互いに学び合うコミュニティ」(ラーニングコミュニティ)づくりが必要です。
*ビジネススクールでは、(2)と(3)をミックスしてクラスを設計します。
注意点として、参加者がやろうとしている事に対して、基礎的な知識や思考スキルを持っている事が必須条件です。あまりにレベルがまちまちな人でディスカッションすると、「出来る人」と「来ない人」の双方の不満度が高まり、脱落者が続出してしまいます。
また、一般的に日本の学校は「正解がある」(先生がそれを知っている)という前提で、クラスを運営をする事がほとんどなので、ファシリテーション型のクラスや、正解がないフワフワとしたテーマについてディスカッションする自体に、ストレスや無意味さを感じる方が多い事は否めません。(有料セミナーなどでは苦情が出る事も)
その意味で、何か新しい知識を得る事に意味があるのではなく、全員で正解のない課題について進むべき道(仮説)を考えることにこそ意味があるという事に価値を見いだし、参加者の「納得感」を高めることがポイントになります。
具体的な事例をご紹介します。
▼その1:
私は「交渉術」の研修講師をするのですが、たまに「そんなのは俺のやり方と違う」と反発するタイプの方がいます。私の方は、専門家によって検証が重ねられた学問的な裏付けのあるやり方をお教えしているのですが、「違う」と思う方がいるのは、健全な事だと思っています。むしろ「違う」と思う理由や背景を参加者全員でシェアし、交渉についての理解を深める事によって、本当に身に付く知識になっていくのです。
ところが(1)(2)タイプのEラーニング形式を使って、同じ「交渉術」を講義したとすると、そういう声が拾えません(実質的に無視されます)。その結果、問題意識の高い学習者ほどアホらしくなって途中で学習を止めてしまうか、いちおう最後までお付き合いはするが、満足度アンケートで低い評価をするでしょう。とにかく学習効果は上がりません。
「交渉術」はそれなりにすべての人が自己流のやり方でやってきているものなので、(3)のディスカッション要素を取り込む必要があるのです。
▼その2
基礎レベルの英語学習プログラムには、どのタイプのEラーニングが向いているでしょうか?
たとえば、
「次の文章を読んで、カッコに入るのは、"is"か"was"かを、みんなでディスカッションしましょう」
という(3)の方法を使った場合はどうでしょうか?
100%の確率で、盛り上がらないか、すでに知識がある人が、ありったけの知識を披露し、それを見ている大多数の人がしらけて終わり、という事になるでしょう。(みんな無用は恥はかきたくないですから当然です。)
この場合は、正解が分からない人が、自分で自己学習しながら正解を知り、理解を深められるような(1)タイプのEラーニングを基軸として、プログラムを設計しなければならないのです。
蛇足ですが、(1)の知識取得のタイプの学習テーマでも、うまく(3)で使うファシリテーションや、学習コミュニティを活用する事によって、生徒(学生)の主体的な学習を促す事が可能です。(これはまた後日、詳しくご紹介します。)
また学習内容をネタにしてお互いがゆるくつながれるコミュニティ(バックチャンネルと呼ばれます)を作ることも、場合によっては有効です。
今回のテーマは「Eラーニング設計 3つの基本形」でした。
続きはこちら→ https://www.f-pad.com/onlinecommunity2.html
<補足>
さらに詳しく考えたい方には、福山先生@東大のコラムがありますので、どうぞ。