毎年開催されているeラーニング関係のイベント「eラーニングアワード 2015」に行ってきました。
私が参加した講演をベースに気になった点をメモします。
大雑把にまとめると、これまでコンセプトベースだったり、マニュアルで感覚的にやっていたことが、具体的にアルゴリズムによって実現/自動化されてきた感じです。(最近注目の自動車の自動運転技術の動きともオーバーラップしますが。)
▼Learning Analytics(ラーニング・アナリティックス)の進化
デジタルナレッジの吉田取締役の講演が面白かったのですが、LMS(Learning Management System/学習プラットフォーム)上でユーザーの行動をトラッキングする技術が洗練されてきました。
例えば
「どれぐらいの頻度で何時にログインしているか」
「どれぐらいの時間映像を見ているか」
などは昔からログが取れましたが、
それらを集めて
「どのKPIとどのKPIがどれぐらいの強さで相関性があるか」
「BigData的な観点からユーザーの傾向を分析し、どのユーザーがドロップアウトしそうか」
といったことが精緻に分析/予想できるようになり、アルゴリズムを組んで自動的に予防的な対策を打てるようになってきました。
また、いままでは使っている学習システムが違うと、データを集約して分析するのが難しかったのですが、このあたりが「Experience API (Tin Can API)」とか、「IMS Caliper」などの統一規格で標準化され、ラーニングアナリティックスが容易になります。
この先には「IoT」を使った生体データ(心拍数や姿勢など)の集約も可能になるので、学習が全方位的にデジタル化されてくることは確実です。
余談ながら、私がビジネススクールの運営責任者をやっていた時は、データ分析をひたすら手動でやっていました。サーバーのログをマクロを組んだエクセルにインポートして分析する形ですが、それらの分析作業+アクションがアルゴリズムによってどんどん自動化するわけですから夢のようです。
また最近は中高でもeラーニングの活用が増えてきています。
特に日本の教師は忙しいので、こういうシステムを活用して先生の時間を解放し、教師本来の仕事である生徒への個別のケアを手厚くできるようにしたり、データに基づいてドロップアウトを防いだりすることができるようになりそうです。(教師の仕事のうち、ルーティン部分はほとんど代替されるので先生もレベルアップが必要。)
▼Adaptive Learning(アダプティブラーニング)の実用化
前述のLearning Analyticsにも関係しますが、こちらはユーザー(学生)のレベルに合わせて、自動的に確認テストの出題パターンなどを変えて最適な学習環境をユーザーに提供しようとするもの。
例えば、2次方程式の回答を間違った場合、途中の計算式を分析しながら、どこが分かっていないのかを判別した上で、どこを重点的に復習をしてもらうのが最も効果的かを判別できます。
ある生徒の誤答はケアレスミスかもしれませんし、他の生徒は根本的に因数分解の理解が甘くて間違っているのかもしれません。それを自動的に判別し、その解説に当たるショート動画をインスタントにプロンプトして、復習を促すことで効果的に学習ができます。
数学(算数)のようにある程度、回答のフォーマットがあって、教科書指導要領で内容が標準化されているものはモデルが作りやすそうなので、一旦システムの精度が閾値を超えると、補助教材としてどんどん学校現場での導入が進みそうです。
こういうアダプティブな仕組みは英語試験(TOEFL のCBT/Computer Based Test)などでは、すでに実用化されていますが、この技術もどんどん進みますね。
▼MOOCのNano Degree 化
MOOC(Massive Online Open Course/大学のオンライン無料講義) が社会認知を得てきて、そこから学位(Degree)を発行する動きになってきています。MOOCで取得した単位を、実際のキャンパスで学位取得するコースにトランスファーしたり、MOOC自体の修了証がNono-Degreeとしてそれなりに価値を持ってきています。
Linkedinで、MOOCのNano-Degreeを履歴書に書くのも当たり前になってきています。
*参照コラム
NHKでMOOCS紹介「あなたもハーバード大へ ~広がる無料オンライン講座~」
クラウドソーシングで仕事を依頼する場合、関連分野でのMITのナノディグリーをもっている人と、謎の3流大学の正式学位をもっている人のどちらを選ぶか、みたいな世界になってきますね。
▼「受験サプリ」「勉強サプリ」(リクルート)の成功
カリスマ教師の講義動画が月額980円で見放題というかなりお得なサービスでユーザーが激増しているそうです。大学受験と言えば、東進、河合塾、そして代ゼミ(最近はパワーダウン気味?)ですが、既存のプレーヤーは校舎を抱えていたり、これまでの動画の価格体系があるので、リクルートに月980円で戦いを挑まれるときついでしょう。
ある種、個別のサポートをバッサリ切っている分だけ安くできるわけですが、前述のLearning AnalyticsやAdaptive Learningなどのシステムをうまく組み合わせると、個別サポートの部分もある程度デジタル的にカバーできそうです。
個人的には、どんどん競争が激しくなって映像部分は今後フリーミアム化が進むと見ています。
▼ゲーミフィケーション
・今年アワードを受賞していた作品のなかに、低学年向け英会話学校のゲーミフィケーション系アプリがありましたが、これは弊社で2年前にリリースしていた
「トイクルクエスト」
と基本的には同じコンセプト。
イラストなどにかなりお金がかかっている様子だったので、資本力では負けますが(^^;)、モチベーションを高めるためのコンセプトはまったく同じですね。トイクルも資金的な余裕ができてきたら、学習プラットフォームとしてリニューアルさせたいところ。
ゲームを他の分野に応用する「ゲーミフィケーションについてはこちらのコラムに詳しく書いていますが、オンライン学習には必須の要素ですね。
ゲーミフィケーションの理論によれば、ゲーム設計において代表的な要素は下記のようなものです。
▼基本
・ゴール(何を目指すのか)
・ルール(ゴールを目指すにはどんな約束事を守ればいいのか)
・デザイン(ゲームの世界観)
・演出(プレイヤーをのめり込ませるための仕掛けやイベント)
▼ゲーム性の設計
・自由度(プレイヤーが自律的に行動するための適度な自由度がある)
・競争と協業(ゴール達成のためには戦ったり協力したりする必要性がある)
・報酬(ステージを進むプロセスで報酬が得られる)
▼導入
・ガイド(ゲームの世界に誘う案内役や、ゲーム場の仕掛け)
・難易度(プレイヤーのレベルと、ゲームの難易度がマッチすると「のめり込み」状態が発生)
・見える化(プレイヤーが自分の状況を把握できる)
・インターフェイス(ユーザーが使っていて違和感を感じない事)
これらを学習のコンテクストで考えると、例えばAdaptive Learningにおいて、ユーザーの能力に合わせて問題を少しだけ難しくするといったアルゴリズムが考えられます。
簡単すぎるゲームは面白くないし、難しくすぎてもダメ。テストで言えば80−90点を取れる問題がユーザーにとって一番モチベーションが上がるのです。