組織を動かすための仕組みを考える「マネジメントコントロール」という研究分野があります。
この分野を簡単にいえば、人に働きかけて強引に何かをさせるのではなく、人々が目標に向かって自然に行動できる「仕掛け」を作る方法学です。
マネジメントコントロールが成功すると、働いている本人には、誰かにコントロールされている認識自体がありません。自分の意思に沿って自然に行動していたら、それが組織のためになり、成果も出せるということです。
MBAでは「管理会計」や「組織行動論」「オペレーションマネジメント」(バランススコアカード)などの関連科目として学習する事が多いのですが、極めて有用な内容なので、少しずつご紹介したいと思います。
このマネジメントコントロールの翻訳書は数冊出ていますが、USC (南カリフォルニア大学)のケネス・マーチャント(Kenneth Merchant) の分類方法が分かりやすいと思います。
(ハーバード大学のR. サイモンズや、R. アンソニーもこの分野の権威ですが、マーチャントの分類の方がシンプルで、個人的にはしっくりきます。なお日本語では伊丹敬之先生の「マネジメントコントロールの理論」(1986)があります。やや専門的内容ですが。)
組織マネジメントにおいて、人をコントロール(統制)する手法は大別して3つ(行動、結果、環境)あります。その中でも、最も基礎的かつ、古典的な方法が「行動コントロール(Action Control)」です。
読んで字のごとく「行動コントロール」は、人々の行動をコントロールします。簡単にいえばマニュアルを作って、それ通りに行動してもらう方法であり、この手法によって管理者はスタッフに思った通りの結果を出させる事ができます。
居酒屋やファーストフード店、スーパーマーケットなど、アルバイトやパートなどの「素人さん」が大部分を占める組織のマネジメント手段として、広く活用されています。
また病院や膨大な顧客情報を扱うデータセンターなど、一つの失敗が致命的な事故になりかねないシビアな業界でも多用されています。
ただし、行動コントロールには大きな副作用があります。それは
「依存心を生みやすい」
という事です。上から与えられる指示やマニュアルに慣れすぎるとスタッフは「思考停止」します。さらに指示がもらえない事に不満を持つようになります。
少なからず自分でアタマで考える事には、労力も自己責任も伴うので、当然と言えば当然でしょう。
その結果「指示がないからやらなかった」「指示を出さない上司が悪い」という発想になってしまいやすいのです。
ちょうど、鳥の巣でヒナ達が口をぱくぱくさせている状態に似ています。(エサ(指示)をくれー。でないと死んで死んじゃうよ!)
加えて、3つのコントロールの中では最もあからさまな方法なので、
「やらされている感」
が最も強い方法です。
世間的には、スタッフの自主性をうながすファシリテーションやコーチング的な指導方法が高く評価される事が多いのですが、そうは言ってもそんな方法では動かせない現場が現実にはたくさんあります。では鉄拳制裁型マネジメントが正解かといえば、それは完全な間違いです。
また、強力すぎるリーダーシップが「行動コントロール」を助長し、知らず知らずのうちに思考放棄状態や依存心を生み出しているパターンもあります。
使い方によって薬にも毒にもなる「行動コントロール」。
この使い方を含め、どうすれば組織マネジメントは成功するのかについて次回以降、詳しく紹介していきます。
☆メルマガでもタイムリーなトピックを紹介していますので、ご興味のある方はぜひ。
Management Control Systems: Performance Measurement, Evaluation and Incentives (Financial Times (Prentice Hall)) (2011/11/22) Merchant / Van Der Stede 商品詳細を見る |