大人の考える技術

若林計志が経営・MBAのフレームワークやマネジメント理論を応用しながら、ビジネス・社会問題を考察します

お客さんが買っているもの

居酒屋を経営している知り合いと、その人がオーナーをしている店に行ったときの事です。店に入ると店員がやってきて

「社長。お越し頂きましてありがとうございます!」

と大声で挨拶しました。すると私の知り合いはすぐに何かを小声で伝え、しきりにその店員が謝っていました。

後で聞いてみると

「お客さんの前で社長なんて大声で言ってはダメだ」

と注意したという事でした。お客さんが居酒屋に来るのは、単に酒を飲んだり料理を食べたりするためではありません。心地よい雰囲気で友達と会話しながら丁寧に接客され、いい気分になりたいのです。ところがそんなところに店のオーナーがやってきて自分達より偉そうにしたら、お客さんが興ざめしてしまうという事でした。

店が繁盛して儲かるのはお客さんのおかげ。だからオーナーでもお客さんでも同じように接客すればよく、むしろ自分達は隅の方で、一般のお客さんに良い席を案内するぐらいで良いということでした。

またお客さんがいる前で、店員を怒鳴りつけるようなオーナーはダメだとも言っていました。当然その理由は明らかで、お客さんの気分を害すからです。

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これに符合するようなエピソードがたくさんあります。先日も私の友人が美容院で「婦人画報」を渡されてがっかりしたという話をしていましたが、その理由は明らかでした。

本来、美容院にお客さんが行く目的は、髪を切りたいからでも、パーマをかけたいからでもありません。それらはあくまで「手段」であり、お客さんの本来の「目的」は、「奇麗になった自分」を手に入れる事です。TVドラマの女優や雑誌を見ながら、いろいろなヘアスタイルを考え、自分が周りの人から「なんか奇麗だね」「その髪型かわいいね」と言われるのを夢みて、ワクワクしながらやってくるのです。

いうなれば美容院に夢物語を買いに行っているにもかかわらず、そこで「婦人画報」という30代の自分よりも年齢層が高い人向けの雑誌を渡されために「あなたはおばさんだ」と言われた気分になってしまったのです。

このように、自社の提供価値を考え抜く事は商売の鉄則だと言えます。