大人の考える技術

若林計志が経営・MBAのフレームワークやマネジメント理論を応用しながら、ビジネス・社会問題を考察します

募金のマーケティング

歳末になると支援団体が募金を募っているのをよく見かける。

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募金

若かりし頃、NGO業界に片足を突っ込んでいたので、UNHCRやWFP、UNICEFなどが一生懸命活動されているを見ると募金したくなる。しかし国連系団体は、現金を一切受け付けずに、月額サポート制への申し込みを勧めるケースが多い。もちろん安定した支援活動をするには、安定したキャッシュが必要で、そのためにはスポットのお金ではなく、安定した収入源を得たい気持ちはすごーくわかる。

 

しかし気軽に100円とか、500円を募金したい人もかなり多いのではないだろうか。そのオプションを設けずに、月額1000円から、、みたいな購読型オプションしか設けないのは、マーケティング的にどうなんだろうと、いつも思う。

 

極端な話、1万円を現金(もしくは電子マネーやクレジット決済でもいいと思う)で募金してもらえば、月額800円で1年サポートしてもらうのと変わらない。

 

そしてメルアドをもらっておいて、定期的にニュースレターを送り、しつこくないぐらいにプッシュすればよいのではないだろうか?

 

しばらく業界から離れているのでなんとも言えないけど、一般のNGOはやっていることなので、国連系ができないわけはないと思う。(本当に活動コストと収益の関係性を十分に分析した結果なのだろうか。何か内規や法律的な縛りがあるのか。いつも気になる。)

 

 

売れ残るほど儲かる? キャシュフローと損益計算書のズレ

以前、事業部の総責任者をやっていた際に、もやもやと違和感を感じていたことがある。それは「売上」と「利益」の関係である。

 

仮に売価1万円の動画DVDの販売を企画したとして、ロイヤリティを含めた製造原価が1枚あたり5000円だったとする。また間接部門から配布される固定費(Attributable Fixed Cost)が一律300万円だとする。

 

もしDVDを1000枚作り、ぴったり1000枚売り切ったとすると、

 

損益計算書(PL)では

売上:1000万円

原価:-500万円

固定費:-300万円

--------------------

利益:200万円

 

となる。

 

ではDVDを3000枚作り、1000枚売れる(2000枚は売れ残り)とすると、損益計算書(PL)はどうなるかといえば、

売上:1000万円

原価:-500万円

固定費:-300万円

--------------------

利益:200万円 

 

で利益額は同じだが、おまけで在庫(=BS上の資産!)が2000枚増えている状態となる。(PLでは、売れた商品分の原価しか計算しないので。)

 

通常DVDはマスター(原盤)を作るコストが高く、量産コピー自体は安いので、たくさん作れば作るほど、原価は安くなる。なので実際はこんな感じになる。

 

売上:1000万円

原価:-300万円 ←-500万円

固定費:-300万円

--------------------

利益:400万円 

 

つまり、PLだけを考えれば、売れようが売れまいが、とにかくじゃんじゃか作る方が、”利益”を増やすには有効だ。 

 

私の担当する事業部では、年次の評価がPLのみで行われていたので、売り逃がしのリスクをとるぐらいなら、多めに在庫を作っておいて、最悪余ったら廃棄する方がPL上は得だというKPIになっていた。

 

しかも在庫をたくさん作れば、BS上の資産も増えている状態になり、その売れ残りの2000枚を次年度に売れば、PL上の利益も出る。 しかし、実際のキャッシュは3000枚作れば、

 

原価0.5万円×制作数3000枚=1500万円

 

出て行っていることになるので、手元のキャッシュは

 

売上1000万円-1500万円=-500万円

 

とマイナス(赤字)なのだ。

 

つまりPL上の利益400万円と、キャッシュ上の赤字-500万円の間には900万円の差があるのである。

 

私は直感的に売り上げ見込みぴったりにモノを作る方が良いと思っていたが、PL上では売れない在庫を作るほど儲かり、一方でキャッシュが減るのは変だといつも思っていた。それを、当時の会計担当者と話し合ったが、PLで評価するの一点張りだった。

 

もし売れ残り在庫2000枚のうち500枚が売れれば、キャッシュは

 

売上1500万円-原価1500万円=0円

 

でありキャッシュ的にはトントンとなる。しかし、旬を過ぎた在庫が売れる保証はない。したがって資金繰り的は、キャッシュフローを見ていないと会社は危ない。

 

もちろんこの矛盾を解決するために、会社全体としてはBS(貸借対照表)、PL(損益計算書)、キャシュフロー計算書の財務3表があるのだけど、それらを無視して事業部の評価をPLだけでするのはリスクが高いのは明らかだし、間違っているのはいうまでもない。

 

もっといえば、固定費を作成したDVDの枚数で按分していたとすると、売れ残るほど固定費が減って、見せかけのPLの数字はもっと良くなってしまう。

 

数字のマジックである。事業部の評価をどのKPIで行うのか。深い問題である。

「なぜ」が大事! ゴールデンサークルとカチッサー効果

私の大好きなTED動画にサイモン・シネックの「優れたリーダーはどうやって行動を促すか」があります。

 


【TED】サイモンシネック 優れたリーダーはどうやって行動を促すか SimonSinek

 

ポイントはメッセージを「WHY」からスタートすること。

 

で、これと一緒に見ると味わい深いのが、名著チャルディーニの「影響力の武器」で紹介されている

 

カチッサー効果

 

です。

 

WIKIPEDIAから引用します。

心理学者のエレン・ランガー(Ellen J. Langer) が実験をおこなった。被験者がコピー機の順番待ちの列の先頭へ行き3通りの言い方で頼む。

  1. 要求のみを伝える:「すみません、5(20)枚なのですが、先にコピーをとらせてもらえませんか?」
  2. 本物の理由を付け足す:「すみません、5(20)枚なのですが、急いでいるので先にコピーをとらせてもらえませんか?」
  3. もっともらしい理由を付け足す:「すみません、5(20)枚なのですが、コピーをとらなければいけないので先にコピーをとらせてもらえませんか?」

枚数が5枚の場合、要求のみのときの承諾率は60パーセントであるのに対し、本物の理由を付け足したときの承諾率は94パーセントであった。しかし、もっともらしい理由を付け足したときでも、承諾率は93パーセントに達した。

枚数が20枚の場合、要求のみのときの承諾率は24パーセントであるのに対し、本物の理由を付け足したときの承諾率は42パーセントであった。もっともらしい理由を付け足したときの承諾率は24パーセントにとどまった。

人に何かを頼む時に単に「○○してもらえますか?」と言うよりも「○○なので、○○してもらえますか?」と理由をつけると承諾されやすい。ささいな頼みごとの場合は、頼みごとの内容とあまり関係のない理由、こじつけでも承諾されやすい。

 

どちらにしても、大きなリクエストを相手にする際に「WHY」が重要な役割を果たすということです。

 

影響力の武器[第三版]: なぜ、人は動かされるのか

影響力の武器[第三版]: なぜ、人は動かされるのか

 

 

 

 

 

 

 

心理的リアクタンスと「もれ聞き効果」

「これをぜひ買ってください」

と他人に強制されそうになると、かえって買いたくなくなるということがよくある。(私なんかはこのパターンだ)

 

人は「自由をうばわれる」「自由を制限される」と直感的に感じると、それに苦痛を感じ、自由を回復するような行動をとる衝動にかられる。これを「心理的リアクタンス」という。

 

したがって、何かを買ってもらおうと思ったら、ユーザーが「自分で選んでいる」「自分で状況をコントロールしている」という体裁をとりつつ、うまくオススメする必要がある。

 

そのための方法の一つは

 

「選択肢を6個程度に絞る」

 

という方法だ。売り手が提示する選択肢が少なすぎる(例えば2つ)と、どうしても「心理的リアクタンス」が発動してしまう。かといって、10個も20個もあると、選択するのに心理的コストがかかりすぎ、選択自体を放棄してしまう、と「選択の科学」の著者であるアイエンガー博士はいう。

 

だから適度に絞って、相手が選びやすい状況を作ってあげる必要があるのだ。

 


シーナアイエンガー 選択しやすくするには


シーナ·アイエンガー - 選択の科学 Sheena Iyengar - The art of choosing

 

心理的リアクタンスを下げる次の方法は「もれ聞き効果」だ。

 

「Aを買ってください」と面と向かって直接説得されそうになると、買い手には心理的リアクタンスが働くが、いわゆる口コミなので「Aっていいらしいよ」(例えば、あの映画って面白いらしいよ)と聞くと、心理的抵抗が少なく、受け入れやすい。

 

お店が「さくら」を用意したり、バンドワゴン効果を狙うのも、心理的リアクタンスを回避するうまい方法だ。

 

ただし、ユーザーが「いずれにしても、必要だからAを買わないとだなんだよなあ」と思っているケースでは、背中をぽんと押して欲しい場合もある。

 

その際は「これは絶対にいいので買って見てね」と売り手に言われた方が、楽な場合もある(「勧められたから買った」というエクスキューズができるからだ)

 

したがって、相手のリアクションを見ながら、どれぐらいの距離感で商品やサービスを進めるのかを考える必要がある。

 

人間の心理は難しいが、面白い。

 

 

 

交渉の鉄則は相手のニーズを見極めること

北朝鮮で日本人の独立系ジャーナリストが拘束されたというニュースが流れています。概要としては、ヨーロッパ系の旅行代理店のツアーで入国して、そのまま消息が途絶えているようです。

 

シリアでも同様にジャーナリストの安田さんが拘束され、その映像が公開されて波紋を呼んでいます。

責任論はさておき、それぞれのケースで水面下で交渉が行われているのは間違いありません。もちろんシリアにしても、北朝鮮にしても、日本政府にそれほど強いパイプラインがあるとは思えないので、細いルートを手繰ってコンタクトを試みようとしている状態であることが推測されます。

 

この種の交渉において重要なのは、3つのポイントです。

 

1)交渉相手が達成しようとしている「目的」(ニーズ)を見極めること

2)面子を潰さないようにそれを満たすこと

3)合意の中で、こちらのニーズが自動的に満たされる条件を入れること

 

当たり前ですが、相手のニーズが宗教的なもの、精神的なものであれば、それを十分に理解する必要があります。宗教色が強い国に住んだり、仕事をしたことがある人は誰でも知っていますが、宗教が生活の中心にあって、命より優先する国は多くあります。

 

それを十分に理解せずに、冒涜してしまうと、その代償は大きいのです。

 

私自身もかつて紛争地で活動した経験がありますが、知ってか知らずか、現地で横暴に振る舞う外国人を少なからず見かけました。もちろん宗教色がそれほど強くない国であれば、現地の文化にレスペクトを示さない態度も大目に見てもらえることがほとんどですが、それは例外的と考えた方が無難です。

 

宗教的感度の低さが裏目に出た良い事例は911同時多発テロ事件です。この事件の実質的な指導者と言われたアルカイダの司令官であり、サウジの名家出身のビン・ラディンは、アメリカとはアフガン戦争で同盟関係にありました。ところが湾岸戦争を巡って、アメリカがサウジアラビアを実質的に冒涜する行為を行なってしまったがために、くすぶっていた反米感情を強く刺激しました。

 

ウサーマ・ビン・ラーディン - Wikipedia

 

ただし超一流のブレーンを抱えるアメリカ政府が宗教的な無理解によりサウジアラビアを冒涜したかといえば、そこは「?」です。実際のところは、当時のブッシュ大統領が各機関からの情報を軽く見て無視したか、自分の政治的野望を優先してしまったがために、起こってしまったというのがリアリティに近いでしょう。

 

いずれにしても国際交渉においては、宗教的な背景に十分すぎるほど注意を払う必要があります。そして宗教的・文化的背景に十分敬意を示した後で、実施的な金銭的な条件交渉を行うことになります。

 

交渉相手にしても、背景にいる仲間から宗教より金銭を優先した「裏切り者」(売国奴)扱いされ、支持を失う(背中から撃たれる)リスクは犯したくないですから、面子を十分に考えた交渉が必要です。

 

よく知られた話ですが、2002年に小泉首相北朝鮮を訪朝を成功させたのは、戦後補償として同国が要求していたウン兆円を、経済協力金として支払うという交渉が行われたからです。決してモラルから行われた交渉でも、北から積極的に拉致被害問題を解決しようとした結果ではありません。

 

ただし金銭的な交渉の背景が表立ってあまり出てこないのは「北朝鮮の面子を守りたい」という日本政府の意向をメディアが「忖度」したが、実質的にそういう依頼が報道各社に対して行われたからです。

 

現在シリアおよび北朝鮮での日本人拘束問題において現在進行形で行われている交渉でも、表の交渉と裏の交渉が同時並行で行われているはず。

 

良い結果になることを祈るばかりです。

オンライン実践コミュニティで競争力を加速する

「経営センサー」(東レ経営研究所 2018-4号)にコラム「オンライン実践コミュニティで競争力を加速する」をご掲載いただきました。嬉しい!

 

ダウンロードはこちら

www.f-pad.com

 

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内容的には、リアルの研修後に、習ったことの実践結果をシェアするオンラインコミュニティを提供することで、学習効果が飛躍的に高まる例を説明しています。

 

(冒頭)「短期のビジネス研修で圧倒的な成果を出すにはどうすればよいのだろうか。研修参加者の中には講師のちょっとした言葉に電撃的なショックを受け、人生が変わるような人もいるが、多くの場合、学習者は習ったことの大部分を忘れてしまうのが現実だ。

 

さらに学んだ内容が本質的(もしくはそれまでの考え方を否定する可能性があるもの)であればあるほど、抵抗感を持つ人が多くなる。抵抗感は精神的ストレスなので、できるだけ早く解消したいと思う。そこで「うちの業界は特殊だから、このビジネススキルは役に立たない」といった結論を早々に出してしまいがちになる。早く楽になりたいからだ。

 

ただ、これではいつまでたっても研修の費用対効果は限定的である。そこでこのような状況を一新するツールとしてオンライン実践コミュニティを活用する方法を紹介したい。」

 

経営センサー4月号 2018 No.201 | 刊行物・書籍 | 株式会社 東レ経営研究所

 

作って見ないとわからない

アジャイルとか、リーンなどが一般語化してきたが、本質は「作ってみないと問題点はわからないので、その”作ってみる”というプロセスのサイクルを短くして、効率を上げようということ」だと理解している。

 

リーンは現在、ソフトウエア業界では「アジャイル開発」として広まっています。アジャイル開発とは、手戻りを最小限に抑えるために短いフィードバックサイクルで設計と開発、テストを素早く繰り返して進めていく開発の手法です。1度ソフトウエアを作ることで課題をあぶり出し、後工程に引きずらずに改善していきます。これにより、QCDの全てが高まるのです。

ウチでもWEBサービスを開発しているが、十分に準備をしたつもりではいたものの、やっぱりサービスをローンチしてみると、事前には想定していなかった問題がどんどん出てくる。

 

初期版がしょぼいサービスすぎると、ユーザーの期待値をもう一度あげるのは難しいが、いつまでも準備をしていても、サービスレベルが高まらない。

 

そして、どの時点から課金サービスにするかという見極めはもっと難しい。

 

理論は分かっているつもりだけど、やってみると手探りのところが多い。