大人の考える技術

若林計志が経営・MBAのフレームワークやマネジメント理論を応用しながら、ビジネス・社会問題を考察します

プロセスを共有する事で「組織の記憶」ができる

ブレストの効果について『世界の経営学者はいま何を考えているのか』(2012) を出版され、現在早稲田ビジネススクールで教鞭をとられている入山さんのコラムをご紹介します。


世界の経営学者はいま何を考えているのか――知られざるビジネスの知のフロンティア世界の経営学者はいま何を考えているのか――知られざるビジネスの知のフロンティア
(2012/11/13)
入山 章栄

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▼「ブレスト」のアイデア出しは、実は効率が悪い!

 IDEOのケースから分かる思いがけない別の効能(2014年4月30日)

 http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20140425/263513/

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このコラムでは、米シラキュース大学のミューレンをはじめとした

3名の研究者が1991年に発表した

集まってブレストするより、 個人がバラバラに考えた方が、アイデアの数(バラエティ)も質も高まる

という研究結果を紹介しています。

では、なぜブレストがいまだに多くの会社で

行われているのについて、

「ブレストにはアイデア創造よりもっと別の役割がある」

というスタンフォード大学のサットンとハーガドンの研究結果が

あります。その「別の役割」とは何かと言えば

「組織全体の記憶力を高める」

というもので、「トランザクティブメモリー」と呼ばれます。

これは要するに

<『組織の誰が何を知っているか』を組織の全員が知っている状態>

のことです。

議論の結論だけを見せられただけでは、その背景を知る事は難しく、

納得感も低いものですが、その結論に至る「プロセス」を共有する事で、

思考をなぞる事ができ「知のマッピング」もできるということなのです。

トランザクティブメモリーがうまく機能すると、

ちょうど自分の脳に「外部ハードディスク」と「グーグル検索機能」が

インストールされたような状態になり、問題が起こったときに

対応しやすくなりますし、何かを考える際に引き出しが増えます。

そして、お互いに学び合う「学習する組織」へと進む事も

可能になります。

●ブレストとフェアプロセス

またブレストによって、結論にいたるまでの

対立や葛藤のプロセスが共有化される事で、

「フェアプロセス」(公正なプロセス)による

プラス効果も期待できます。

フェアプロセスは

ベストセラー「ブルーオーシャン戦略」の

著者の1人であるINSEAD経営大学院の

W.チャン・キム氏らが提唱した概念ですが、

これを実現するには3つの原則があります。

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▼フェア・プロセスを実現する3原則

◎エンゲージメント:

社員一人ひとりが自分たちに関係する事柄の意思決定について、

意見を求められること、相互に意見交換して議論すること

◎説明:

意思決定に至った背景や理由をマネジメント側が説明し、

社員に理解してもらうこと

◎具体的で明確な期待:

いったん意思決定を行ったならば、その結果として、

社員一人ひとりの達成目標や評価基準がどのようなものに

なったか、失敗した場合にはどのようなペナルティがあるか、

誰が何に責任を負うのかといった、新しいルールを明確にし

伝えること

*フェアプロセスついて詳しくはこちら

http://www.fxli.co.jp/co_creation/forum/consider/000263.html

サラリーマン時代に、

幹部会議の結論だけをはしょってチームミーティングで伝えたら、

スタッフから異論反論が出て収束に苦労した事があります。

また事業部レベルのリーダー会議で数ヶ月かけて出した結論が、

上層部の会議にかけられて否決され、

その理由が全く説明されなかったために

大きな不満を持った事もあります。

こういう問題が起こるのもすべて「フェアプロセス」が

確立していなかったからなのかも知れません。

最後になりますが、ブレストに関する今回の研究結果は、感覚的にはやや違和感があります。

ワイワイと議論をやっていると、それなりに思考の幅は広がりますし、ネットの記事を読みながら新しいヒントを得ることと、ブレストで新しい知見を得るのは比較的近い感覚に思えるからです。もちろん、そういうヒントを自分なりに咀嚼して考えるときに、新しいアイデアが出る事もたしか。

ということで、このトピックは継続フォロー。またまだ学ぶことは多いですね。