一見、逆の性質を持ったものが融合すると、不思議な魅力を醸し出すことを私は「ギャップ理論」と呼んでいます。たとえば・・・
・安いのに高品質(ユニクロ)
・安いのにうまい(サイゼリアなど)
・かっこいいのに下ネタも好き(福山雅治/桑田佳祐/桜井和寿@ミスチル)
・子どもっぽいのに、時々大人な表情 (子役タレント)
・細マッチョ(一見スリムなのに、筋肉質。例えば「007」のダニエル・クレイグ)
のような例です。意識して見ると同じような事例が無数にあります。
「グロテスクだけどかわいい」(ゆるキャラに多い。例えば奈良の「せんと君」)
「エロかっこいい」(倖田來未のキャッチフレーズ)
「パチパチパンチ」(吉本新喜劇の島木譲二の定番ギャグ。こわもてな人はコミカルな動きを見せる)
「金持ち父さん 貧乏父さん」(世界的ベストセラー。読者にどういう意味?と思わせる)
「13歳のハローワーク」(村上龍のヒット作。13歳なのにハローワクって、というギャップが面白い)
などなど。このように反対方向の性質を組み合わせて魅力を出す「ギャップ理論」は、よく恋愛論の中で語られますが、マーケティングなどでも広く活用されています。例えば、
「マイナス五歳肌」(ソフィーナ プリマヴィスタ 菅野美穂さんのCMでヒット)
はいい例です。常識的に「そんなの不可能でしょ」と思うようなことをチャッチコピーで言われると、「ウソを暴いてやろう」とか「もしかしたら本当かも(自分だけ知って得しよう」などと思ってしてしまうのです。
では、なぜギャップがあると興味を持ったり、魅力的に見えるのでしょうか。その理由について、拙著「プロフェッショナルを演じる仕事術」(PHPビジネス新書 2011)では次のように説明しています。
「我々はこの世の中に予定調和を求める一方で、それにどこか飽きているところがあります、そして何かドラマチックなことが起こるのを期待しています。「見たまんまの人が一番魅力がない」といいますが、「この人はきっといういう人だろう」という先入観を、よい意味で裏切ってくれる人には不思議な魅力があります。いつもは強面の人が優しくしてくれたり、一見地味な人がアウトドアで要領がいいとかっこ良く見えるのは、その人の違った一面が見えるからです。このような「予想(期待)」と「現実」のギャップこそが魅力を生み出すのです。」「プロフェッショナルを演じる仕事術」(PHPビジネス新書)
人はギャップを感じると「そんな訳ないだろう」と反射的に思います。(違和感を持ちます)するとどうするか。
不安に感じるんです。だって予想がつかないことは漠然と怖いし、なんとなくスッキリしないですから。
したがって、この不安を解消するための行動に出ます。例えば、
「60歳なのにこの元気」
というサプリメントのバナー広告を見ると「そんな訳ないじゃないか」と思い、そのウソを暴こうとクリックしてしまう訳です。そして、60歳なのに元気になった理由をきちんと説明され、それに納得すると「AHA!」と小さな驚きが生まれ、うれしくなってしまうのです(結果として購入しますし、ソーシャルメディアでバズとして拡散します。)
日本にダイレクトマーケティングを流行らせた神田昌典さんが
「マンションはまだ買うな!」
「まだダイエットグッズに無駄なお金を払い続けますか?」
のような問いかけ型のキャッチフレーズを積極的にすすめられていた時期がありましたが、これも理由は同じです。キャッチフレーズを読んだ人に
「ホンマかいな」
と思わせて「読まないと損になるんじゃないか」という揺らぎの感情を起こすことができれば、興味を持って広告を読んでもらうことができるのです。書籍のタイトルでも「1週間でできる・・・・」「金持ち父さん、貧乏父さん」をはじめ、読者に疑問を持たせるようなものがたくさん売れているのも同じ理由です。
一つ気をつけなければならないのは、この「ギャップには賞味期限がある」ということです。
最初のうちは、ギャップを感じていたことでも、慣れてくるとそのギャップ感はだんだん無くなってきます。一発ギャグの芸人が消えていくのも、出始めの頃のギャップが無くなって、飽きられてくるからです。
したがって、みんなに興味を持ってもらっているうちに、次のギャップを生み出す必要があるのです(たとえば、ドラマ出演して、シリアスな一面を見せたりするような例です。)
今後も「ギャップ理論」を利用した様々な人物や商品が出てくるはず。ぜひ注意してウォッチしてみてくださいね。
<蛇足>
最近、高知のゆるキャラ「マグロ人間(カツオ人間)」が人気があるんだそうです。顔は魚で、後頭部が切り身のようになって切れている妙なキャラですが、人気の理由は同じですね。