大人の考える技術

若林計志が経営・MBAのフレームワークやマネジメント理論を応用しながら、ビジネス・社会問題を考察します

会社を動かす3つの力を見極める (社内コンフリクトの原因と解決)

本コラムの POINTS

❶社内コンフリクトの背景には、3つの力が働いている
❷成長に伴い3つの力のバランスが崩れることで、会社は迷走する
❸今後、企業は「統合戦略」か「アンバンドリング戦略」の選択を迫られる

 


1、3つの業務タイプ

「かつてイノベーティブな商品をどんどん生み出していた会社が、いまでは見る影もなくなった」「昔は”おもてなし”で有名だったホテルが、最近はありきたりなサービスしかしなくなった」といった事例を聞いたり、実際に目にしたことのある読者も多いのではないだろうか。

 

その一方で、規模が大きくなっても、イノベーティブな精神やホスピタリティを失わず、むしろその強みを増している会社もある。

 

ではこれらの違いを生み出しているものは一体何なのか?それを解く鍵が、本稿でご紹介する「組織を根底で動かしている3つの力」である。

 

この3つの力は、会社のコアコンピタンス(強み)やアイデンティティとも言えるものであり、FAW(Forces at Work)、つまり「背景で働いている力」である。

 

どの組織にも必ず存在し、マネジメントに甚大な影響力を持つのだが、明確に意識している会社はそれほど多くない。

 

また筆者の専門としているコンフリクトマネジメントの分野でも、うまくいっていない会社には、この3つの力の対立が多く見られる。だからこそをしっかり認識し、主体的にコントロールすることが重要なのである。

 

この3つの力は、研究者によって「オペレーショナルエクセレンス」(運営面での卓越性)、「製品リーダーシップ」(最良の製品を作り出す能力)、「カスタマーインティマシー」(顧客との親密性の追求)と呼ばれたり、「インフラ業務管理」、「イノベーション業務」、「カスタマーリレーション業務」と呼ばれたりするが、ここでは

 

「効率性」

イノベーション

「おもてなし」

 

という名称を使って説明を進めたい。(いずれも分類の本質は同じである)

 

❶ 効率性

「効率性」の目指すべきところは、できる限り製品や提供サービスを均一にし、最もスピーディーかつ低コストに業務を行うことにある。そのためには、マニュアルを整備し、厳格なルールの下で管理を行いたいと考える。もちろん、例外対応は効率を下げるので、できるだけ排除すべき存在となる。通常、会社の規模が大きくなるほど、標準化を進めなければマネジメント自体が成り立たなくなるので、「効率性」重視の志向が必然的に強くなる。

 

❷ イノベーション

顧客自身が自分でも気づいていないような潜在的ニーズを見出し、それを具体的な形にするのが、イノベーションの役目である。かつてのSONYウォークマン」の開発や、ジョブズ復帰後のアップルをイメージすると分かりやすいが、新しい時代を作るようなサービスや商品は、大概の場合、リリース前に社内で大きな反対に合う。それまでの常識に反するからだ。ただその抵抗をかいくぐって市場に出たサービス/商品のいくらかは、市場の圧倒的な支持を得て、最後には会社の命運さえ握るほどのインパクトを持つことになる。

 

❸ おもてなし

顧客のニーズにできるだけ寄り添い、長期的なリレーションシップを構築することが「おもてなし」(=ホスピタリティ)の役目である。そのために顧客と様々な対話を重ね、共感し、一人ひとりの異なるニーズを満たすために最大限のカスタマイズや特別対応を厭わない。顧客満足度を最大限に高め、信頼関係を気づくことこそが、中長期的な利益を会社にもたらすと信じているからである。

 


2、反発する3つの力

上記の3つの力は本質的に異なる性格を持つため、お互いに反発し合うことが多い。例を挙げてみよう。

 

「効率性」vs「おもてなし」

「効率性」を重視する人から見れば、カスタマイズや例外対応は許し難い無駄な行為に映る。それらはコストをアップさせ、秩序だったマネジメントにカオスをもたらし、社内のコントロールを難しくさせるからだ。もちろん「おもてなし」重視派からみれば、そのような杓子定規な姿勢こそが、顧客の期待を裏切り、競争力を低下させると考える。両者の典型的な対立が、オペレーションを標準化したい「管理部門」と、できるだけ柔軟に顧客ニーズに対応したい「営業」の間でのコンフリクトである。

 

イノベーション」vs「おもてなし」

マーケティングの世界では

 

「お客様のニーズを聞きすぎると、イノベーションは生み出せない。なぜなら顧客は自分が欲しいものを知らないからだ」

 

といった話がよく出てくる。確かにイノベーションを起こすためには、良い意味で顧客や常識を”裏切る”必要がある。しかし顧客の期待を裏切ることは満足度を低下させる。例えば、パソコンのOSがアップグレードする際、これまでのサービスに慣れ親しんだユーザーにとっては、一時的(一部の人にとっては恒久的)に不便を強いることになる。それが「おもてなし」派にはなかなか受け入れられない。だからといって、新旧サービスのニーズを同時に満たそうとすれば、新サービスは必然的に中途半端なものになってしまい、同時に2つを走らせればコストアップにもなってしまう。だからこそ「イノベーション」と「おもてなし」は対立しやすい。

 

「効率性」vs「イノベーション

端的に言ってイノベーションは効率が悪い。1000回実験したからといって成功する保証はどこにもなく、お金をかけたからうまくいくという類のものでもない。時代の変化や個人のセンスに依存するところも大きい。したがって「マネジメントオブイノベーション(MOI)」の観点から言えば、イノベーションが生まれやすい「場」をいかに作り、偶発的に出てきたアイデアのタネをつぶさないで育てられるかが肝になる。

 

この辺りの社内コンセンサスがなければ、効率派から見てイノベーション関連業務は投資効率の悪いギャンブルにしか見えない。実際、担当している技術が陽の目を見るまで開発者が”冷や飯”を食っていたり、リストラの際に真っ先にターゲットになってしまうこともよくある。

 

しかしカゴメの野菜関連テクノロジー東レ炭素繊維をはじめ、多くの技術が数十年後に当初想定もされていなかった新しい市場を作り出している例は多々ある。したがって長期に渡って試行錯誤を繰り返すための予算が欲しい「R&D/開発部」と、無駄なコストを抑えたい「管理部」のコンフリクトは避けられない。

 

下記はそれぞれの特徴をまとめた図である。

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 * 出所:ジョン・ヘーゲル3世、マーク・シンガー著「アンバンドリング:大企業が解体されるとき」(Diamond Harvard Business Review April-May 2000)で紹介されている図表をベースに著者編集


3、成長の歪み(ひずみ)

前述した3つの力の対立は、ベンチャー企業では表立って問題にならないことが多い。なぜなら社員数が少ないために「効率性」「イノベーション」「おもてなし」の3つの性格を持つ業務を一人で掛け持ちすることが多いからだ。

例えば、いかに効率を高めようと思っても、自分を信頼して取引してくれる顧客の顔が何人も浮かべば、なんとか便宜を図りたいと考えるため、自然にバランスが保たれるのである。

 

ただ会社の規模が大きくなると、このバランスが一気に崩れる。社内では必然的に分業体制が敷かれるようになり「経理」は「経理」、「開発」は「開発」といった具合に部門ごとに各業務に集中する体制になる。その結果、業務効率はアップするのだが、同時にサイロ化(たこつぼ化)を進めてしまう。

 

そしてサイロ化した業務(部門)に特化した人材が雇用され、組織に過剰適応していく中で、元々それぞれの業務が持っていた「イノベーション」「ホスピタリティ」「効率性」といった性格が加速度的に強くなっていくのである。

 

そして、最後は縄張り意識が生まれ、他部門には口出しできない冷戦状態になる。

 

また企業規模が拡大するにつれ、マネジメントは「効率性」の傾向を強くせざるをえなくなる。人数的に「間接部門」の業務が増え、効率性が要求されるのは避けられないからだ。(逆に言えば「イノベーション」や「おもてなし」を中心にやっていては、計画に基づく安定的なマネジメントができないのだ)

 

もちろん創業者が健在なうちは、「イノベーション」や「おもてなし」的な性格もある程度維持されるが、それはいつか終わりを迎える。

 

例をあげよう。ある店舗で接客カウンターの椅子が、お客さんにとって少し座り心地が悪そうだと気づいたとする。そこで「おもてなし派」は、稟議書で「椅子の取り替え」を提案するのだが、そこでは「効率派」である上司に対して、「椅子を変えることで、いかに収益が改善するか」という種の証明を延々しなければならない。

 

また「イノベーション派」が「AIやスマホを使った手軽に始められる新しいビジネス」を考えついたとしても同じだ。その新しいビジネスが絶対に当たり、リスクも十分低いことを「効率派」が多数を占める管理者層(そして、その背後のいる株主)に納得してもらわなければ、そもそも新しいトライをスタートできない。(その横を、ベンチャーが軽やかに駆け抜けて行く。)

 

一般的に未知の可能性に対する仮説の証明は困難を伴うことが多いため、「効率派」は相対的に”勝ち”やすい。こうして、新しい挑戦に対するハードルはどんどん高くなり、組織は重くなっていく。

 

さらに上場を目指すのであれば、内部統制関連のルールが整備され、その担当マネージャーも増えるため、「効率派」はさらに力を増していく。銀行借り入れが多かったり、上場したりすれば、ステークホルダーからのプレッシャーも強くなるため、不確実性の高い「イノベーション」や、費用対効果の見えにくい「おもてなし」に投資するよりも、コストカットなどで確実な結果が出しやすい「効率性」重視の傾向がどうしても強くなる。

 

こうして「効率派」勢力が経営層の趨勢となり、企業のアイデンティティは大きく変質していくことになる。

 

もちろん「おもてなし」や「イノベーション」的な性格が強い創業者が健在なうちは、3つのバランスはかろうじて維持されるが、それは長く続かない。

 

イノベーティブだった企業が、カリスマ社長の引退とともに競争力を失ったり、ホスピタリティに溢れるサービスだったホテルやレストランが規模の拡大とともに性格を変えたりするのは、3つのバランスが一気に崩れるからなのである。

 


4、変化に対する2つの戦略

では、このような変化に対して、規模の変化にかかわらず競争力を維持している企業はどのような戦略をとっているのだろうか?それは「統合」と「アンバンドリング」という真逆の戦略である。

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2つの戦略

❶統合戦略

J&Jのクレドに代表されるように、長期的に利益を出し続けている会社は、経営者個人に属人的に依存するのではなく、その経営理念に3つの力の優先順位が示されている。

 

さきほど「3つの力は反発する」と書いたが、実は優先順位の明確化によって、この3つをうまく統合できればシナジー効果を発揮させることも可能だ。

 

例えば「おもてなし」×「効率化」によって、低コストで高品質のサービスを提供することが可能になる。ホテルであれば、チェックイン/アウトなどを自動化して利便性を高めたり、バックオフィスの業務を効率化して、本来の「おもてなし」に集中できる体制を作ることが可能になる。

 

逆に言えば、いくらスタッフが「おもてなし精神」に溢れていても、ダブルブッキングが頻繁に発生したり、朝の忙しい時にチェックアウトの長蛇の列に並ばせられたりするようでは、話にならない。

 

また「イノベーション」×「おもてなし」で、顧客のニーズを先回りして予測したり、イノベーション」×「効率化」によって、各種サービスを自動化することもできる。

 

もちろん、もともと反発する性格を持つ3つの力だけに、それらを統合するには、理念浸透にコストや時間がかかるのは言うまでもない。

 

ただよく見てみれば事例は沢山ある。たとえば瀕死の危機にあったマツダが「スカイアクティブ」で大復活を成し遂げた背景には、ボトルネックの解消による徹底的な「効率化」がある。それがキャッシュフローを劇的に改善させ、イノベーションを後押ししたのである。

 

ここで重要なのは、3つの力にメリハリをつけて優先順位をつけること、そして3つの要素は、少なくとも最低限のレベルを満たしておかなければならないとことだ。

 

前述の通り優先順位をつけておかないとコンフリクトが発生する。したがって、うちは

 

1位 効率性

2位 イノベーション

3位 おもてなし

 

だと順番を決めておく。それ自体が自社のウリを決めるという重要な「戦略」である。

 

例えば、ウォルマートのウリは「EveryDay Low Price」だから、効率性が最も重視される。お客さんもウォルマートにおもてなしを求めていない。

 

だから、標準化できることは、AIやロボットで置き換えてしまうという方向に進む。

 

japan.cnet.com

「効率化」によって浮いたお金を、在庫管理のスーパーコンピューターや顧客履歴を管理するCRMに投資すれば良い。つまり「イノベーション」や「おもてなし」は、「効率化」にしたがって実現するというのが、多くの企業に見られるトレンドだ。

 

もともと規模が大きい会社は「効率化」によってスケールした訳だから、当たり前といえば当たり前の戦略とも言える。

 

ただし「業界最安値」を目指して効率性重視にあまりに偏重し過ぎてしまい、顧客を軽視した態度が許容範囲を超える(=ホスピタリティが低すぎる)と、それはクレームの原因となり、いくら価格競争力があったとしても企業にとって命取りとなる。

 

機内からの顧客を引きずり下ろして一気に非難を浴びたユナイテッド航空の事例などがこれに当たる。要はバランスである。

 

❷アンバンドリング戦略

 もう一つの戦略は、3つの力を積極的にバラバラにしてしまう「アンバンドリング」である。

 

元々トレードオフの関係にある3つの力を一つの会社内ですべて成り立たせるには経験や経営ノウハウが必要であり、コストや時間もかかる。その上、妥協した中途半端な戦略をとれば、いずれか一つのコアコンピタンスに特化した企業に負けてしまう。

 

例えば、Googleは極限まで早く、使いやすく、網羅的な検索サービス開発に経営資源を集中したからこそ強いのであり、裏を返せば「おもてなし」は捨てているのである(それを同社に求めているユーザーは少ないだろう。)

 

ただ、そうは言っても「アンバンドリング戦略」は、最近まで現実的ではなかった。その理由はいくつかある。

 

まず最初の理由は業務をアウトソースしようとしても、電話で進捗を確認したり、郵送でものをやりとりするための「インタラクションコスト」が高かったからだ。

 

だが現在は違う。ネットを使えば、コストも時間もかつてほどかからない。クラウドソーシングのインフラも整ってきており、時差を活用して24時間サービスを構築したり、国内外の賃金差をそのまま競争力として活用することもできる。さらにオープンイノベーションによって、外部のアイデアを取り込むことも可能だ。

 

逆に言えば、仕事を受ける側も、依頼されやすい環境が整ってきたことで、新しいビジネスチャンスが次々と生まれている。アマゾンのインフラ部分をIaaS(Infrastructure as a Service)として切り出したAWSなどはその典型と言えよう。

 

そして世界にちらばる専門会社をバーチャルにネットワークし、あたかも一つの会社のように経営する方が、不毛なコンフリクトを避ける意味でも、多様性を担保する意味でも、そして事業をスケールさせる意味でもメリットが大きい場合が増えてきているのだ。

 

2つ目は、お客さんがトータルサービスを必ずしも求めなくなったからだ。例えば、かつて金融機関といえば、預金、融資、送金などすべてのサービスを一式揃えていなければ勝負にならなかった。

 

ところが最近のフィンテックで活躍しているベンチャーを見ると分かる通り、融資のみ、決済のみ、送金のみ、といった単一業務に特化して斬新なサービスを展開するアンバンドリング戦略を前面に出したプレーヤーが次から次に出てきているのである。

 

3つ目はAI, ビッグデータ、IoTなどの発達により、無理に3つの力を統合しなくても、Amazonのリコメンドサービスのように「おもてなし」的な要素を、無人で実現するような仕組みが急速に出来上がってきているのである。

 

もちろん、カンパニー制などをとって、それぞれカルチャーが異なる業務を社内で切り分けてしまうという手もある。

 

また会社規模の拡大に応じて、ある程度「効率派」ベースの経営にならざるをえないことを受け入れ、自身はイノベーターが生み出した製品/サービスをスケールさせたり、プラットフォーマーとして、彼らの活躍を支えるエコシステムの構築に徹するという手もある。自社の技術を公開して、外部の力を利用するオープンイノベーション戦略や、スケールメリットを利用したM&A戦略ももちろん考えられる。

 

 5、まとめ

「社内がギクシャクしている」「イノベーションが叫ばれている割に、全然出てこない」など、気になる点があれば、一度3つの力がどういう状況にあるのかを検証してみると良い。アンケートやインタビューによって、3つの力のプライオリティに関する認識が驚くほどズレていることが分かるはずだ。

 

また人事評価のKPI*が、会社の目指すミッションと密接にリンクしてお互いに矛盾していないかをチェックするのも大切だ。

 

ズレは不要なストレスを生み出し、離職率をあげ、ネガティブな情報としてソーシャルメディア等で伝播するリスクを高める。そして人材獲得にも影響し、最後には競争力にも影響する。

 

もちろんこのズレは誰かが悪意を持って引き起こしているのではなく、それぞれの立場の人が「よかれ」と思って業務を遂行した結果である。

 

まずは問題を「見える化」したのち「統合するのか、アンバンドリングするのか」を意識的に考えれば、コンフリクトに向けられていたパワーを、成長に向けた原動力に転換することができるはずだ。

 


【注】

1)「インフラ業務管理」「イノベーション業務」「カスタマーリレーション業務」という分類を示したのは「アンバンドリング:大企業が解体されるとき」(ジョン・ヘーゲル3世、マーク・シンガー著、Diamond Harvard Business Review April-May 2000)である。

 

2)「オペレーショナルエクセレンス」「製品リーダーシップ」「カスタマーインティマシー」の分類を提唱したのは、マイケル・トレーシー、フレッド・ウィアセーマ「ナンバーワン企業の法則」(日経ビジネス人文庫 1995)である。

 

3)神田昌典「2022―これから10年、活躍できる人の条件 」(PHPビジネス新書 2012)は「ビジネスモデルジェネレーション」(翔泳社 2012)をベースに「Efficiency (経営の効率性)」「Innovation 」(商品/サービスの革新性)「Hospitality&Intimacy 」(顧客との親近感)と分類している。

 

4)3つの分類は、その後マネジメントコントロールの分野に影響を及ぼし、KPIとしてBSC(Balanced Score Card)の4つの指標(「ファイナンス」「顧客視点」「組織プロセス」「イノベーション&学習」)などに反映されている。詳しくはこちら

 

5)成長に伴う、社内コンフリクトと3つの力の関係については、グレイナーの論文(5段階成長モデル)が参考になる。

 

*本稿は「東レ経営センサー 2016年5月号」に掲載されたコラムを加筆訂正したものです。

経営センサー5月号 2016 No.182 | 刊行物・書籍 | 株式会社 東レ経営研究所

 

ナンバーワン企業の法則―勝者が選んだポジショニング (日経ビジネス人文庫)

ナンバーワン企業の法則―勝者が選んだポジショニング (日経ビジネス人文庫)

 

  

2022―これから10年、活躍できる人の条件 (PHPビジネス新書)

2022―これから10年、活躍できる人の条件 (PHPビジネス新書)

 

 

 

なぜなぜを5回繰り返しても真因はわからない。アドラーに学ぶソフトな問題解決

フロイトユングと並び「心理学の三大巨頭」と言われ、

 

「道はひらける」「人を動かす」(カーネギー
「7つの習慣」(コヴィー)

 

などの名著に多大な影響を及ぼし、

 

精神科医ながら、アウシュビッツ強制収容所に収監され、奇跡的に生き延びた体験をもとに著した『夜と霧』(こちらも名著!)の著者として知られるヴィクトール・フランクルが師と仰ぐアルフレッド・アドラー (1870-1937)という人物がいます。

 

そのアドラーのエッセンスを物語形式で書いた「嫌われる勇気」(岸見一郎&古賀史健)が2013年の発売以来ベストセラーになっています。

嫌われる勇気―――自己啓発の源流「アドラー」の教え

嫌われる勇気―――自己啓発の源流「アドラー」の教え

 

 

しかしなんとなく読む機会がなく現在に至っておりました。


▼「嫌われる勇気」について(特設サイト)

book.diamond.ne.jp

 

ところが、先日たまたまNHKの「100分de名著」でアドラーが解説されているのを見て、改めて興味を持ったのが今回のコラムを書いたきっかけです。

 

www.nhk.or.jp

 

まだまだ関連書をいくつか読んだ段階ですが、初めは親交のあったフロイトアドラーが袂をわかつ要因になった決定的な考え方の違いがあります。

それについて考察しましょう。


●「原因論」と「目的論」

フロイトは悩みの原因を、過去に遡って考える「原因論」的な立場を取ります。

 

一方アドラーは「目的論」的なアプローチを取るところに、両者のスタンスの違いがあります。

 

アドラー心理学の特徴は、「すべての悩みは対人関係の悩みである」とした上で、フロイト的な原因論を根底から覆す「目的論」の立場をとるところにある。

 

たとえば、「子どものころに虐待を受けたから、社会でうまくやっていけない」と考えるのがフロイト的な原因論であるのに対し、アドラー的な目的論では「社会に出て他者と関係を築きたくないから、子どものころに虐待を受けた記憶を持ち出す」と考える。

つまりアドラーによれば、人は過去の「原因」によって突き動かされるのではなく、いまの「目的」に沿って生きている。」

 

別にどっちが決定的に間違っているとも思いませんが、アドラーの目的論は、これまでの「原因」にフォーカスするやり方と比べあまり一般的ではない分

 

「なるほど」

 

と思わせるものがあります。

 

特に

 

「悩みを解決する」

 

という視点から見た場合、原因である過去のトラウマを云々するには結構大変そうですが、本人が持っている未来への意思をベースに

 

「その目的を達成するには別のやり方もある」

 

ということに気づけば、クリエイティブな解決法が出てきやすい印象を受けます。で、実はTOC(制約理論)をベースにした

 

「ジレンマ解決型の問題解決(通称「クラウド」)

 

にすでにビルトインされている考え方なのだと改めて気づいたのです。

つまり「原因」ではなく「目的」をベースにした問題解決です。

 

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●すべては対人関係=ジレンマ

アドラーは「すべての人の悩みは対人関係」と喝破しますが、これは言い方を変えれば、対人関係において、

 

「理想」(本当はこうであってほしい状態)
「現実」(理想とはかけ離れた状態)

 

ギャップ存在していることを示しています。

 

ギャップがあるからこそ悩むわけですが、「現実」からその理由を探ろうとするとどうしても「原因論」に走りがちです。

 

例えば、過去に書いたコラムをご覧ください。

flowone-lab.com

まだ教えていない掛け算を使った回答を「X」にした先生の”現実”をベースに、他人が「なぜ」「なぜ」「なぜ」を質問を繰り返すと自然に

 

「原因論」

 

になります。もちろん質問攻めにあった先生は「自分は責められている(尋問されている)」と感じるでしょう。

 

トヨタ式問題解決では

 

「why ×5回」

 

で真因を探れとよく言ったりするのですが、これは工場などで不良品が出たような場合、原因を特定するためにロジックツリーで細分化し、絞り込んでいくような「ハードな問題問題解決」には大変有効な一方、人間の心理が絡むソフトな問題解決については、かなり注意が必要です。

 

というのは、”なぜなぜ式”問題解決は、どうしても「原因論」に引っ張られやすいからです。

 

もちろん”なぜなぜ式”も、「人の問題に突き当たったらそこで止まらずに、その奥を考えよ」というのは鉄則ですが、自分が批判的に見ている相手の「なぜなぜ」を探ろうとする場合、バイアスがかかりやすいのです。

 

で、結局は

 

「やる気のないお前が悪い」
「気合が足りない(性格が悪い)」

 

的な見ている人の予定調和といいますか、決めつけ的な「なぜ」を導き出してしまいがちです。

 

このように原因を「人のせい(人の性格)」に求める問題解決は成功しませんし、むしろ本人の反発を招きます。

 

また原因を人の性格に求めるのですから、解決策として「その人の人格を変える」形のアプローチに陥りがちです。

 

もちろん当の本人は自分の人格なんて他人に変えられたくないですから、激しく抵抗するでしょう。


●「原因論」→「目的論」に切り替える

これに対し、アドラーの提唱する目的論に切り替えると、その人の本心が見えやすくなりますし、ずっとソフトです。

 

つまり

 

「Why」(なぜ)ではなく
「What for」(何のために)

 

を明らかにする。

 

先ほどの例でいえば、

まだ教えていない掛け算を使った回答を「X」にした先生に、「なぜ」を問うのではなく、「なんのために」を聞いた方が、よっぽど本心が分かるということです。

 

彼(彼女)は、その本人なりに合理的な目的があった、だからその行動をとったと考え、そこを見極めようとするわけです。

 

そして、本人も納得する「目的」に基づいてアプローチを変えようと提案するのですから、本人も納得しやすいでしょう。


●目的を本人が自覚していない場合もある

ただし、その「目的」は必ずしも本人が自覚的に目指しているものではない場合もあります。

 

たとえば、上記でご紹介したNHKの番組で、「子供がおねしょをする」は、親の気を引きたいという目的が存在するという話題が出てきます。

 

ただし、子供本人が

 

「私は親の気を引きたいのだ」

 

と自覚もしていないでしょうし、本人にそう問い詰めても、それが潜在的なコンプレックスに根ざしている場合「うん」とは言ってくれないかも知れません。だからそれを汲み取るのが大切です。

 

そして、おねしょをする子どもに「もっとちゃんと注意しなさい」と怒鳴るよりは、真の目的を念頭に置いて

 

「おねしょをしなくても親の気をひく方法はある」
「おねしょをしても親の気は引けない」
「無理して親の気をひく必要なない」

 

といったことをコミュニケーションできれば、抵抗なく問題は自然に解決に向かうという訳です。


。。。上記は一例ですが、アドラーと問題解決についてはもう少し考察したいと思います。

 

おまけ

TOC型問題解決(=システム思考)を知りたい方はこちらがおすすめです。

考える力をつける3つの道具

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 漫画ストーリーで知りたい方はこちらも

ザ・ゴール2 コミック版

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オペレーションこそが経営戦略

4月7日、セブンの鈴木会長が退任するニュースがでて世間を騒がせましたが、その背景の一つに、「ヨーカ堂の過剰在庫100億円を伊藤家に買い取って欲しい」と、鈴木さんが打診したことが背景にあるようです。

 

business.nikkeibp.co.jp

記事によれば、ヨーカ堂のCEOも兼任する鈴木氏が、作りすぎた衣料品などの在庫を富豪の伊藤名誉会長が買い取り、寄付してはどうかと提案したそうですが、それがかえって伊藤家(一族)の鈴木さんへの不信感につながったようです。

ーー

この問題を読み解くヒントになるのが「 ウォルマートに呑み込まれる世界」という8年前の本です。

 

米国最大のスーパーセンター(ホームセンター&スーパーマーケット)の実像を書いた本ですが、ここに書かれている状況がちょっと遅れて日本にもやってきています。

ウォルマートに呑みこまれる世界

ウォルマートに呑みこまれる世界

 

本書の中では、中小企業がウォルマートと取引できるようになって喜んだのもつかの間、大量の発注に耐えられるように設備投資をしたにもかかわらず、いきなりウォルマートから発注キャンセルされたり、取引自体が突然打ち切られ、泣く泣く潰れていくような悲惨な状況が書かれています。

 

しかしこれは単に

 

「ウォルマートひどい」

 

ということではなく、ウォルマート自体もサバイバルのために苦しんでいることを示しています。

 

消費者の嗜好の変化(ボラティリティ)は年々激しさを増していますし、ネットも含め購入先のオプション(交渉術でいうBATNA)は増えています。

 

そういう気まぐれな顧客を相手に商売する場合、すばやくそのニーズの変化についていく必要がある訳ですが、リードタイム(設計/製造してから、お店に並ぶまでの時間)が長いと、ニーズについていけなくなります。

 

例えば

「この商品が売れそうだな」

「爆買いでこの商品が欠品しているな」

 

というニーズをつかんで、設備投資をして商品を作り始めたり、追加生産しても、リードタイムが90日あると、90日はじーっと待たないといけない。

 

しかし、90日後にその商品が本当に売れるかどうかがわからないのです。

 

したがってウォルマートの発注に応じて、90日かけて一生懸命1万個商品を作っていても、80日目ぐらいで、その商品の売れ行きが悪くなっていることがわかると、納品前にキャンセルされてしまう。

 

もちろんキャンセルできないように契約書で縛ることもできるでしょうけど、実質的に大企業vs下請けの立場では、対等な交渉は難しいことも多いのです。(簡単に代替の効くコモディティ商品を作っている企業ならばなおさらでしょう)

 

またウォルマート側も、明らかに売れない商品を仕入れてしまっては赤字になる訳ですから必須にキャンセルするでしょう。(もちろん自社製造した商品だったらキャンセルできませんから、不良在庫を抱えることになり、経営を悪化させます。これが一部のメーカーが苦しんでいる要因です。)

 

ではこの問題を解決する処方箋は何かと言えば「過剰在庫を持たないようにすること」です。

 

どうすればそれが可能になるかといえば、一つは販売店舗に在庫を持たせ、本体はその責任を負わないシステムにすることです。

 

セブンイレブンフランチャイズ/チェーン方式がその典型ですが、本社は開発/仕入れを行い、各店舗はそれを買い取る方式にすれば、在庫リスクは各店舗が負うことになります。

 

もちろん、各店舗が個人事業主のように収益責任を負い、自己意志で仕入れができばベストですが、売り逃がしを防ぐために、本社は各店舗に廃棄ロスを含めて購入を強く「推奨」します。(これが「コンビニ会計」でよく問題になる点です)

 

この方式は食品などがメインのコンビニではうまく機能しましたが、衣料品や耐久消費材の多いヨーカ堂GMS)のような業態では必ずしもうまくフィットしなかったようで、売れ残りの不良/過剰在庫を本体が抱える結果に繋がり、業績を悪化させたようです。 

 

またサプライチェーン全体で見れば、不良在庫が店舗にたまるわけで、あまりベストなやり方とは言えません。

ーー

過剰在庫を作らないための、もっと本質的なやり方が「リードタイムを圧縮する」ことです。

 

90日先のニーズではなく、14日先のニーズを予想するであれば、予想精度は圧倒的に高くなります。また予想が外れても、売れ行きを見ながら生産を調整できるので、不良在庫を削減できます。

 

ではそれが本当に可能なのかといえば、もちろん可能で、ZARAユニクロが、リードタイムを圧縮して、在庫処分セールを不要にする体制を築いてきているのはよく知られています。

 

また絶好調のMazdaが、リードタイム圧縮の決め手としてTOC(制約理論)を使ってキャッシュフローを改善し、それをスカイアクティブ開発に回すことで業績を回復させたのも、だんだん知られるようになってきています。

 

消費者の心変わりが早いマーケットを相手にするスーパーや製造業において

 

経営戦略=オペレーション」 

 

という傾向は年々高まりそうです。

「対立する人」(敵)を「問題解決の仲間」に変える交渉術

交渉上の細かい条件でもめている場合、本来のゴールに立ち返ることの大切さを考えさせてくれる良いコラムを発見しました。

 

東レ:市場は後からついてくる」(Diamond Harvard Business Review Oct 2015)には、ユニクロ東レが、どのような交渉をベースにヒートテック開発を行ったかについて、その秘話が掲載されています。

 

 ヒートテックは、合成繊維で4種類の糸を使って作られているそうですが、それは業界的には不可能な話で、社内でそんな提案が出てきたら、

 

「お前はわかっていない」(常識がわかっていない素人だ)

 

と集中砲火を浴びただろうと、日覺氏(東レ代表取締役社長)は当時の様子をインタビューで語っています。

 

しかしユニクロはまさにそれを要求してきたため、

 

「それじゃあダメだ」(ユニクロ側)

「できるわけないじゃないか」(東レ側)

 

というやりとりが何度も繰り返され、現場は一時期かなり険悪は雰囲気だったそうです。

 

しかし結局1万回の試作をつくって実験を重ねた結果、できないと思われたヒートテックがなんと完成。世界的な大ヒットとなりました。

 

当初のユニクロ東レの対立を図解するとこうなります。

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*この図はTOC(制約理論)の「クラウド」という図解方法なのですが、読み方は

 

ユニクロ側)「A.衣服で世界を変えるには、C.全く新しいハイテク素材で勝負したい。それならば、D'東レヒートテック(新しい合成繊維)を作って欲しい」

 

となります。

 

でも同じようにして、東レ側の要望を見ていると、

 

「繊維で世界を変えていく」ためには「無駄な努力をしない(リソースを守る)」

 

となっており、矛盾しているんですね。

 

「世界変えるためには常識に挑戦しなければならない」

 

ということはイノベーターである東レ側も重々分かっているんだけど、現実問題として難しい、という話なんです。だから、実は東レ側の「内部対立」(現実と理想)でもあるんです。

 

だからユニクロの交渉の切り口としては、「一緒に世界を変えていきましょう」という理念レベルでの「共通のゴール」を設定することがキーになります。

 

ここが握れてしまうと、ユニクロから「世界を変えていくのに、いままでの常識どおりのことをやっていて変えられますか」という質問をされると「うぐぐ」とならざるをえない。

 

元々イノベーターである東レは常識を破りたいわけですから、「その通りだよね。いっちょやったろかい」と言ってくれる可能性が高いのです。

 

もちろんビジネスですから、背に腹はかえられません。したがってユニクロ側としてもう一押しするなら、「試行錯誤についてはユニクロ資金を出して同じ船に乗るから、一緒にやりましょうよ」ということになります。

 

もちろん、東レにその潜在的な能力がなければ、ユニクロにとってはドブにお金を捨てる話ですが、

 

ユニクロ東レのポテンシャルを信じていたこと

東レ自身も挑戦を受けた立ちたいという潜在的欲求があったこと

ユニクロは販売力があるので、成功したら果実は十分甘いこと

 

という条件があったからこそ交渉が成り立ち、ヒートテックを大成功に導いたのだろうと思います。

 

両者にとっての「共通のゴール」を設定すると、

 

対立の関係(敵)→問題解決(共通の敵を倒す)仲間

 

というスタンスを取りやすくなります。このあたりが、この交渉の一番のポイントだったのだろうと思います。

 

ではなぜ、「敵」が「仲間」になったのか。

 

小難しくいうと

 

「分離」→「非分離(統合)」

 

に変化したからです。つまり、東レユニクロは当初

 

「あなたはあなた」

「私は私」

 

という分離状態にあったのですが、

 

共通のゴールを見出したことで

 

「私はあなた」

「あなたは私」

 

の非分離状態に変化したんです。つまり、ユニクロ東レであって、東レユニクロであるという、運命共同体の状態です。

 

だから、世界を変えていくのに、いままでの常識どおりのことをやっていて変えられますか」という正論には勝てない。だって自分で矛盾していることに気付いちゃうから。

 


実は、交渉が上手い人って、この辺りが上手いんですよね。例えばこのコラムに良い例が載っています。

president.jp

 孫さんが、リクルートからの転職を固辞していた青野さん(元ソフトバンク執行役員)をどう口説いたのか。

 

記事にはこんなやりとりが描かれています。

 

孫「いまの世の中、おかしいと思わないか。それを変えていくのは政治家か、官僚か。それはビジネスという世界から変わるんじゃないか。じゃあ、それができる経営者は誰だ」

 

青野「孫さんかもしれません」

 

孫「そうだ。俺が変えていく。」「これまでの人事は、みんなすぐ辞めてしまった。おまえをやっと見つけた。うちに来て、人事をやれ。800社を預ける。世界を変える。俺の夢に乗れ」

 

この30分のやりとりで、青野氏は頑なに拒否していた転職を決意することになります。

 

先ほどと同じ「クラウド」図で書くとこんな風になります。

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当初青野さんは、漠然と「安定した生活を守りたい」や「リクルートで責任ある仕事を全うしたい」という要望があったのだと推測しますが、その奥には、

 

「世の中を良くしたい」(=それこそが良い人生だろう)

 

という潜在的な思いがあった。そこを孫さんは見抜いて直球を投げ込んだ。当然、青野さんは「そうですね」という回答になる(ならざるをえない)ので

 

「だったら、そのベストな方法はSBしかないんじゃないか(少なくとも「安定した生活」じゃないよね)」

 

という流れになるわけです。これは説得でも何でもなく、東レユニクロの交渉と同じように「孫=青野」という統合(同志的結合)の当然の結末ということになります。

 


 ちなみに、マーケティングの際に「売り手」と「買い手」が一体化(非分離)すると、売上がダントツに上がると説くのは、マーケッターの神田昌典さんです。

 

新刊にその辺りのロジックが詳しく書いてあるので、ぜひどうぞ。

稼ぐ言葉の法則――「新・PASONAの法則」と売れる公式41

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また「クラウド」の使い方は、「ザ・ゴール2 コミック版」がオススメです。(漫画版の方は、内容もいろいろとアップデートされています。)

ザ・ゴール2 コミック版

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オンラインコミュニティ運営の基礎スキル

実際にオンラインコミュニティを運営する際、もっとも基礎になるポイントをいくつかご紹介します。

 

要はには各メンバーが安心して発言できる「場」をいかに構築するかという話であり、リアルの会議や研修でも基本的に行うことはかなり共通しています。


1、参加メンバーをコントロールする
2、自己紹介の機会を設ける

3、発言ルールを設ける
4、サロンを設ける



1、参加メンバーをコントロールする

ネットでのコニュニケーションは、対面に比べてどうしても「親和動機」が低くなりがちです。つまり対面では、

「対立を避けてできるだけ仲良くしよう」

という気持ちが自然に働くのに対して、ネットではその傾向が弱くなるのです。

匿名性が高く、誰でも書き込めるネット掲示板などが良い例ですが、どうしても不特定多数の人が入り混じるコニュニティは荒れがちです。

あなたの運営するオンラインコミュニティが「荒れる」のを防ぐためにできる最も基本的な対策は、参加メンバーをしっかり管理することです。

当たり前といえば、当たり前ですが、参加メンバーが事務局でしっかりスクリーニングされていることは、参加者に安心感を与えます。(その役割を世話人やシスアドがボランタリーに行うこともあります)

 

また参加者当人にとっても、自分はしっかりモニターされているということが分かる訳ですから、暴走発言したい衝動に駆られても、自己抑制することができます。

 

2、自己紹介の機会を設ける

メンバー同士が自己紹介する機会を設けることで、メンバー間の匿名性がぐっと低くなり、協調的な雰囲気が生まれやすくなります。

またお互いにバックグランドがある程度分かれば、相手の発言の真意が推測しやすくなったり、自分の発言が悪意に解釈される可能性が少なくなるため、投稿への安心感が生まれます。

 

ただし、事務局がいきなり

「みんな自己紹介してください」

と促しても、慣れない参加メンバーにとっては心理的なハードルが高い場合もあります。その場合は、ひとひねり加えると良いかもしれません。

例えば

「自分の好きな本を紹介してもらう」
「最近あった嬉しいことを話してもらう」

といった話しやすい定型フォーマットを提供し、それと絡める形で自己紹介してもらうと、比較的スムーズに発言してもらいやすくなります。

 

また各メンバーに「最低3人の自己紹介に必ずコメントしてください」といったリクエストをすると、盛り上がりやすくなります。


もちろんそう言っても、一つのコミュニティに何百人もいると、メンバー間の親和性は低くなります。その場合は

ー全員が参加している「メインコミュニティ」
ー参加時期や年齢など、何らかの共通項でくくった「サブコミュニティ」

に分割する方が良いでしょう。

 

3、発言ルールを設ける
人によって、言葉の使い方にはスタイルがあります。対面であればストレートな表現であっても、身振りや表情などでその真意が推測しやすいのですが、文面だけの場合、どうしても攻撃的に見えたり、冷たく見えたりすることがあります。

 

そこでコミュニティにはあらかじめ共通ルールを設けることをお勧めします。(途中で設定すると「誰かへの当てつけではないか」という別の解釈が生まれ、問題を複雑にすることがあります)

 

もちろん社会人同士のコミュニティにであれば、厳密なルールを設定しなくても「常識の範囲」で自然にうまくいく場合が多いのですが、一旦問題が起こるとそうも言って入られません。

 

その意味で、

 

「投稿が必要以上に攻撃的になっていないか注意しましょう」

「理解が不足しているかもしれない点は、聞いてみましょう」

 

といったルールを設けることが肝要です。

 

4、サロンを設ける

それぞれのテーマについて深くディスカッションすることは重要ですが、そこから派生して、テーマに絞られない自由なコニュニケーションの中から、新しい気づきが生まれたり、イノベーティブば発想が出てくることも少なくありません。

 

意図としない学び(=Informal Learing)を促す上でも、何でも自由に投稿できるサロンを設けておくと、意外に盛り上がることがあります。

 

またその和気あいあいとした雰囲気は、本編のディスカッションにも良い影響を与えます。

 

以上、ポイントをご紹介しました。(続く)

 

蛇足ながらこちらのコラムはオンラインコミュニティ運営を考える上でおすすめです。

 

その他、オンラインコミュニティに関するコラムはこちら

www.f-pad.com

 

シャープとホンハイ(鴻海)の交渉術  「交渉は交渉が成立しないでも良い方が有利」

鴻海によるシャープの買収交渉ですが、最後の段階で偶発債務(将来発生しかねない債務)の問題が出てきて、ごちゃごちゃしましたが、最終的にシャープ側が折れる感じで妥結しそうです。

 

鴻海、30日に取締役会 「シャープ買収案を議論」 (2016/3/28 2:00)

www.nikkei.com

一連の流れを交渉術の観点から見ると、いろいろなポイントが見えてきます。


▼困るのはどっち?

当初、シャープの買収先として名乗りを上げていたのは、政府系ファンド産業革新機構とホンハイです。

 

産業革新機構が5000億円程度の買収金額を提示し、それを見てホンハイが7000億円に価格をつり上げた経緯があり、シャープは買収金額に加え、

 

「現経営陣の続投」
「シャープは解体しない」
「40歳以下の若い社員の雇用は守る」
「銀行に破損をさせない」

 

などの好条件を提示してきたホンハイを最終交渉相手に選びました。
(シャープ側は当初、優先的交渉権は与えていないと否定)

 

ところが、産業革新機構がディールから降り、その後、偶発債務(最大3500億円!)が取りざたされるとホンハイ2000億円程度の買収金額の引き下げを要求。

 

もちろん産業革新機構が今更、もう一度名乗りを上げることはなく、また何もしなければシャープは債務で倒産する恐れもあるので、断わるに断れない状況にあります。

 

メインバンクのみずほや三菱東京UFJもシャープに対する7000億円の融資が焦げ付いてしまっては困るので、ホンハイの提案をむげに断れない状況でした。

 

BATNAと決定権を見抜く

「交渉は交渉が成立しないでも良い方が有利」

 

とはよく言ったもので、15兆円の売上を誇り、シャオミ(小米)やアップル、SBペッパーの受注製造メーカーとしても絶好調のホンハイが交渉上では圧倒的に優位なのは間違いありません。

 

シャープに断られても困らないからです。


交渉術的に言えば、

 

BATNA(Best Alternative to a Negotiated Agreement)

 

つまり、交渉が決裂した時の好ましい第2オプションをシャープは実質持っていない(産業革新機構が勝負を降りたことで失ってしまった)のに対し、ホンハイは、有り余るほど持っているということです。

 

さらに、交渉の本当の「意思決定者」はシャープ経営陣ではなく、7000億円の融資を行っている銀行団であり、彼らを味方につけるために

 

「銀行保有の優先株2000億円の買い取り」

 

を提案した鴻海は一枚上手でした。


▼文化的背景から考えてみる

これについては、下記のハーバード大のコラムがオススメです。

「Getting to Si, Ja, Oui, Hai, and Da」

hbr.org

 

新興国では、交渉の手前でかなりの時間をかけるのが普通です。

なぜなら、お互いに相手が裏切るリスクをかなり高く見積もっているからです。

 

しっかりと法制度が整っている先進国では、契約書さえきちんと整っていれば、契約内容が履行される確率が高い(むしろ施行されなければ賠償リスクが発生する)ので、交渉前のコミュニケーション時間は比較的短いのですが、

 

ドロンして逃げちゃえば行方がわからなくなってしまう国や、賄賂等で法を簡単にゆがめられる国では、契約書自体は、あまり意味がないのです。

 

また契約書は「一緒にやりましょう」というサイン程度であってその後に内容が「調整」されることも珍しくありません。(これを「寝技」と呼ぶ人もますが。)

 

だからこそ、その人の人間性や素性をじっくり知るために中国人同士でもじっくり時間をかけるという訳です。

 

今回の買収交渉でも、そのあたりのポテンシャルリスクをきちんとアドバイスできる人がシャープ側にいたのだろうかとちょっと疑問に思ってしまいます。


*ちなみに、中国との入札競争に負けてしまったインドネシア高速鉄道建設案件ですが、同じような問題を抱えているようです。

 

▼案の定か…日本退け、中国受注の「インドネシア高速鉄道」に暗雲

www.iza.ne.jp

 

最終的に、シャープ側は1000億円のディスカウントで鴻海の買収提案を受け鴻海傘下入りする流れですが、鴻海はまだ態度を留保しています。

 

BATNAは残しておいた方が有利なのですから、当たり前といえば当たり前ですね。

 

ただし、ルノーに買収されて復活した日産やフォードの資本を入れて危機を脱したマツダのような事例もあり、シャープにとってはこれをチャンスに変えられる可能性も大いにあるのではないでしょうか。

雪かきでゲーミフィケーション

こういうゲーミフィケーションは本当に面白い。

 

さらに雪かき労働の対価をAirBnB の宿泊費に変えられたら、どうせ地元でご飯も食べるから地方経済も盛り上がり、雪かきも行われ、その上運動もできてしまう。

 

「交通費+宿泊費無料で、長野雪かき1日ツアー」
とかあったら、結構行く人いるかも(僕は行くなあ。)


「報堂のスダラボと "雪かき"をゲーミフィケーションするIoTデバイス「Dig-Log」を共同開発」

 

www.i-studio.co.jp