大人の考える技術

若林計志が経営・MBAのフレームワークやマネジメント理論を応用しながら、ビジネス・社会問題を考察します

借金トラップ回避に成功したマハティールの交渉術

スリランカやフィリピンが、資金&インフラ建設援助の名目で中国の借金トラップにはまってしまい、塗炭の苦しみにあえいでいるケースを何度かご紹介しました。

 

もちろんトラップといっても、無理やり「押し貸し」した訳ではなく、インフラ整備を急ぎたい新興国の政治家が、借り手としてのリスクを十分計算しなかった事にも責任があります。

 

ただプロジェクト予算がオーバーして中国からの借り入れが増加している側面もあり、それが意図的なのかどうかはわかりませんが、責任はどっちもどっちです。

 

ちなみに、日本の円借款金利が1%、中国が6%でその差6倍ですが、 中国の場合は格安(?)の国営インフラ建設会社付きです。(日本のODAも似ていますが。)

 

昨日の「Forbes」の記事によると、マレーシアのマハティール首相は、この借金トラップをうまく抜け出る交渉を成功させたようです。

 

forbesjapan.com

下記引用

 マレーシアは中国との取引にあたり、あえてスリランカパキスタン、フィリピンが取らなかった行動を取った。中国政府を交渉テーブルに引き戻し、同国がマレーシアで進めてきたプロジェクトのコスト削減を実現したのだ。

中国は先ごろ、同国が投資し、同国の業者が工事を請け負うマレーシア東海岸鉄道(ECRL)の建設費用を3割以上減額することに合意した。これは、マレーシアのマハティール・モハマド首相にとって大きな勝利だ。

 

www.nikkei.com

 マハティール氏の説明によると、建設費用を215億リンギ(5800億円)圧縮する過程で、既存の鉄道との乗り換えを容易にするといった路線計画の改善をはかった。地元の経済界が建設による利益を享受できるようにするため、マレーシア企業の受注割合も従来計画の3割から4割に高める。

基本的にはプロジェクトを完全に中止するという「BATNA」を提示することが決め手になったようです。

首相は昨年8月にECRLプロジェクトの中止を発表。中国を交渉のテーブルに引き戻し、そして勝利した。

 

「契約を破棄するという選択肢を常に保持する」と王道な戦略が、交渉において重要であることが証明するようなケースです。

 

相手に依存しなければならない状況を作った時点で、当然ながら交渉力は弱くなります。ITプラットフォーマーに翻弄されるユーザー企業も同じですが、よっぽど信頼できる相手でもない限り、自分の運命を100%相手にゆだねる状況はリスクが高すぎます。

 

現役復帰した93歳のマハティールですが、深みにハマる前に、そこからうまく抜け出したということで、さすが老練な百戦練磨の政治家の実力を見た気がしました。