大人の考える技術

若林計志が経営・MBAのフレームワークやマネジメント理論を応用しながら、ビジネス・社会問題を考察します

不自由さの中に創造性が育まれる(行動コントロールの応用)

従業員が行うことのできる行動に著しく制限を加えることで、予想通りの結果を導くことを目的とする「行動コントロール」というマネジメント手法があります。

 

作業マニュアルなどがこれに当たりますが、一見クリエイティビティを阻害するかに見える「制約条件」が、返ってクリエイティビティを刺激する事例がたくさんあります。

 

例えば、設定が決まっている定番のドラマやアニメを見ると、脚本監督が毎回入れ替わっていることがよくあります。

 

例えば「カリオストロの城」は、ご存知の通り宮崎駿監督が手がけた名作ですが、ルパン、五右衛門、銭形警部、峰不二子などの定番キャラ、つまり描かれる世界の「型」は、原作のモンキー・パンチ氏が作り出したものです。

 

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ではキャラ設定の不自由さがあるから、宮崎監督の創造性が阻害されたかというと、現実はむしろその逆です。

 

同じことはシリーズもの映画(「ドラえもん」でも「男はつらいよ」など)でも、小説(東野圭吾湯川博士シリーズ)でも、クラシック音楽でも、俳句でも、古典落語でも言えます。

 

これらには基本的な「型」が存在しますが、それを使いこなす人によって、その雰囲気は全く異なります。つまり「型」という制約があることによって、かえってそれを使いこなす人の「技」が際立ったり、創造性が引き出されるという事が往々にしてあるのです。

 

当然ビジネスの世界で言う「フレームワーク」も同じです。

 

およそ「道」がつく武道、花道などに「守破離」のことわりがあるのも同じ理由です。

 

「守る」=型を守る、師匠を真似することで、返って創造性が育まれるのです。決して自由放任の放置プレーが、創造性を育む訳ではありません。

  

最近、ビジネスモデルや戦略の課題について、いろいろな人がアイデアを発表する研修を行うことがあるのですが、テーマに制約条件が多ければ多いほど(たとえば「この会社にはキャッシュがなく、この事業領域でビジネスを成功させる必要がある」といった感じの課題)、参加者のアイデアが湧きやすいなと思うのです。

 

さらに、制約が多いほど、他の人のアイデアから学べる機会が倍増します。

 

例えば

 

「画期的な電化製品についてアイデアを出しましょう」

 

という課題だと、ある人はアイロンについて、別の人は掃除機について考え、そのアイデアを発表する事になります。それはそれで面白いのですが、

 

「画期的な<冷蔵庫>についてアイデアを出しましょう」

 

とテーマを限定すると、別の人の視点から「なるほどなあ」「そうきたか」と思えるケースがぐっと多くなります。

 

なぜなら、自分も同じ冷蔵庫についていろいろと考えた上で、全く違う切り口のアイデアを聞く事になるので、自分に足りない視点に気づきやすいからです。

 

「不自由さの中に、本当の自由がある」
「厳しさの中に、本当のやさしさがる」
「型の中に、創造性が宿る」

 

矛盾した存在の中に、本当の答えがあるのって何だか面白いですよね。

 

ーー
「制限が創造性を高める」という仮説については、アムステルダム大学のジェニナ・マルグクらの研究が『The Journal of Personality and Social Psychology』に掲載されているそうです。

 

wired.jp

 

また「選択の科学」で有名なアイエンガー教授も、選択を制限することによって、人のモチベーションが上がったり、消費財金融商品投資信託)などの売上がアップする事例を多数紹介しています。同書の中にある、この一節が印象的です。

 

「ジャズ界の巨匠で、ピューリッツァー賞音楽賞受賞作曲家でもあるウィントン・マルサリスは、ある時にわたしにこう話してくれた。「ジャズには制約が必要だ。制約がなければ、だれにだって即興演奏はできるが、それはジャズじゃない。ジャズには制約がつきものだ。そうでなきゃただの騒音になってしまう」(P310)

選択の科学 コロンビア大学ビジネススクール特別講義 (文春文庫)

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