大人の考える技術

若林計志が経営・MBAのフレームワークやマネジメント理論を応用しながら、ビジネス・社会問題を考察します

インドネシア高速鉄道の失注に学ぶ交渉術

インドネシア新幹線、真に敗れたのは誰か

超大型案件は中国に軍配が上がったが…

大坂 直樹 :東洋経済 編集局記者 2015年10月17日

http://toyokeizai.net/articles/-/87558

日本はインドネシアで大きな案件を落としました。その背景には、日本が歴史的に多額のODA(政府開発援助)を同国に提供しており、当然

「鶴の恩返し」

をしてくれるだろうと見込んでいた節があります。今回、その目論見がまんまと外れてしまったわけです。

もともとインドネシア政府が出していた条件は下記でした。

1)政府に財政負担が生じない

2)融資に対する返済保証を政府は行わない

3)企業連合などが建設から運営まで当たる

これらの条件は決定的に重要で、その背景にはジョコ大統領が

「お金を使うなら高速鉄道じゃなく、電気や道路インフラをなんとかしろ」

有権者から突き上げられている事実があり、過去に円借款の恩義があったからといって、それを優先したら次の選挙で落選するリスクが高いのです。

だからこそ、見積もり価格では日本より高かった中国案を選んだのです。

つまり「交渉術」で最も重要な相手のファーストプライオリティのニーズを満たすことを軽視し、過去の恩義や人脈のプッシュで乗り切ろうしたところに無理があったとも言えるのです。

中国が原発や武器輸出をパッケージにしているという理由もあるでしょうが、やっぱり「政府が返済保証をしない」というのが、際立って重要なファクターだったことが変わりません。


このニュースを受けて、日本では

「中国の新幹線なんて危ないよ」

「わかってないな」

インドネシア政府が破綻したら中国は泣きをみるぞ」

といった意見もありますが、少なくとも中国高速鉄道は中国国内で普通に走っていますし、もともとの技術は日本の新幹線を一部模倣したものなので、それなりに安全です。

もちろん日本ほどの完璧なレベルではないにしても、牛丼を注文しているお客に、「こっちの方が美味しいから」とステーキ丼をオファーしても断られるのです。


同じように日本は戦後スリランカに膨大なODAを拠出していたにもかかわらず、中国べったりのラジャパクサ政権の元で10年近く冷遇されてきました。

*同国の内戦を終わらせるために中国が軍事支援をしていたのも一因と言われています。

今年、シリセナ大統領に政権が変わって状況は変化しそうですが、

過去にODAを出して恩を売ったからといって、インフラ整備に絡める時代は、AIIB(アジアインフラ投資銀行)の件や、上記でご紹介したインドネシア高速鉄道失注の件を見ても終わっています。

もちろん中国経済が減速して、国内で余ってしまっているインフラ建設のキャパシティを海外に振り向けたい、だからんりふり構わず、条件の悪いディールでも引き受けているという背景もあるでしょう。

そんなインフラ輸出競争でライバルになっている中国に、未だに日本がODAを出し続けているのは喜劇に近いかも知れません。