大人の考える技術

若林計志が経営・MBAのフレームワークやマネジメント理論を応用しながら、ビジネス・社会問題を考察します

吉野家の経営戦略とは何か

2010年04月17日 に楽天ブログでコラムを書き、拙著「プロフェッショナルを演じる仕事術」で、吉野家の歴史や、経営戦略の変遷についての分析しました。

結論としては、

「経営戦略の分析はほとんどが後付けで、結局良くわからない」

というもの。最近になって吉野家に明るい兆しが見えだすと、その理由をそれっぽく説明するなんとか研究所の研究員や評論家がしますが、それでは本質は見えないと改めて思います。

別に彼らが悪い訳じゃありません。それぐらい経営戦略は難しいものなのです。(2010年に「吉野家は必ず復活する」と予測している人がいれば尊敬しますが。)

したがって下手でも自分なりに考える事が必要なのだと改めて思います。

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2010年04月17日 楽天プロフィール

吉野家の業績悪化はロジックで説明できるのか

牛丼チェーンとして有名な「吉野家」について考えてみます。

吉野家は80年代に倒産し、民事再生を経験して借金を完済した上、上場したというまさに激動の歴史を持つ会社です。

安倍社長によれば、倒産前の調子がいいときに、

吉野家は牛丼の味を磨くことに集中しているから成功している。これは『選択と集中』という経営戦略のお手本だ」

と専門家はこぞって分析していたと言います。

ところが倒産した瞬間、マスコミや専門家は手のひらを返したように

吉野家が潰れたのは牛丼しか売っていなかったから。消費者の多様なニーズに合わせて、もっと商品のバリエーションを広げるべきだった」

と評論したと言います。

その後、吉野家が血のにじむような努力で復活を果たすと、また

「少ない資源を牛丼という1点集中したことが吉野家が復活した理由だ」

と評論されたと語っています。

牛丼をメインに売っているのは、昔も今も同じなのに、同じ理由で失敗の原因とも、成功の要因だとも説明される。その状況を見て、安部氏はやはり最後に信じられるのは自分だけだなと思ったそうです。

さて実際のところ、吉野家はなぜ潰れ、なぜ復活したのでしょうか?

安倍社長自身は、店長になれる人材が育っていないのに急拡大してしまったからだと分析しています。つまり牛丼自体の問題ではなかったという事です。

ただし真実は誰にも分かりません。いろいろな人が様々データを使って科学的な説明をしますが、すべてはいま起こっている事を「原因」と「結果」が分かりやすいように、後づけで説明するための「仮説」にすぎないのです。

さて2010年2月期、吉野家は上場以来最大の大赤字に陥っています。すでに2008年に牛丼店チェーンのトップの座を「すき屋」に明け渡し、松屋とも競り合っています。今回の赤字発表を受けて雑誌などの専門家の分析を読むと、松屋すき屋が、牛丼以外のメニューを充実させることで売り上げを伸ばしているのに対し、吉野家は牛丼以外に売りがないという評論が多く見られます。

また吉野家にはフランチャイズ店が多く、本部の統制が効きにくいことで、コストアップになっており、それが業績悪化の原因だという解説もメディアで書かれています。

さて、果たしてそれらの説明は本当なのか?同じくフランチャイズ店の多い「餃子の王将」が業績がよいのに、フランチャイズ制度が業績悪化の説明になるのかなど、疑問は多くありますが、およそ80年代と同じ分析が行われているように見えるのは私だけではないはずです。

吉野家の業績悪化の本当の原因は何か?

消費者の嗜好の変化で競争のルールが変わってしまったのか?その理由は誰にもわかりません。ただ言えるのは、経営者はそんな中で、毎日決断を迫られているという事だけです。

それが経営者の孤独な仕事なのです。