大人の考える技術

若林計志が経営・MBAのフレームワークやマネジメント理論を応用しながら、ビジネス・社会問題を考察します

社内の「対立」と「和」について考える

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「対立(コンフリクト)」と聞くと、何やらネガティブな感じがしますが、その対(つい)になる「和」というコンセプトも含めて、少し整理して考えてみたいと思います。

「対立」には大きく下記の2つの見方があります。

・生産的コンフリクト(Productive Conflict)

・非生産的コンフリクト(Unproductive Conflict)

MBAでは定番の組織行動論の教科書「組織行動のマネジメント」(S. ロビンス)に基づいて考えると、非生産的コンフリクトは、「伝統的見解(Traditional View)」に基づいており、生産的コンフリクトは「相互作用論的見解(Interactionist View)」に基づいています。


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▼伝統的見解

・コンフリクトは悪である

・コンフリクトはそれ自体が問題を引き起こすと同時に組織の内部に問題を抱えている証拠

・コンフリクトが起きない組織にする:健全な組織

▼相互作用論的見解

・コンフリクトは善であり,奨励すべきもの

・コンフリクトが起こることで,問題が顕在化する

・変化や改善へのきっかけとなる

・生産的コンフリクトもある

こう並べて見てみると「相互作用論的見解」の方がなんとなく良いことが分かるのではないでしょうか?

ただ現実的には非生産的コンフリクトがいろいろなところで起こっています。営業vs開発、現場vs経営みたいものが典型例ですが、同じ会社の中で「あいつらは○○だ」と言い合い、部門間で足を引っ張り合っている例などゴロゴロしています。

そういう現実を踏まえれば

「コンフリクトは悪である」

という「伝統的見解」のパラダイムはかなり強力です。

日本で「ウチはチームワークが良くて」「対立なんてないですよ」って言っている会社でも、蓋を開けるみれば、みんな”大人”に振る舞っているだけで、組織内で抜き差しならぬ絶妙なバランスが保たれており、表面上だけ「和」が保たれていているケースが結構あります。

また本質的な問題(対立)から目を背けて先送りし、当面平和に生きようとしているケースも少なくないでしょう。(その証拠に、社員同士が本当に腹を割ったコミュニケーションができている会社はそれほど多くないように思えます。)

でも

「対立が表立って見えないだけの状態」

「利害関係のバランスが拮抗している状態」

って、明らかに本来の「和」じゃないですよね。

じゃあ、どうすれば

「非生産的コンフリクト」の世界から

「生産的コンフリクト」の世界

「対立を無理やり押さえ込んだニセの”和”」から

「お互いに協力し合う本当の”和”」

に移行できるかと言えば、ドロドロして表面に出てきていない「対立」を一旦表面化させるしかありません。

ただし単に

「思っている事をお互いに言い合いなさい!」

とやってしまっては、かえって状況を悪化させかねません。(学生同士でケンカしてかえって仲良くなった、という青春ドラマのようには、なかなかいかないのです)

だからこそ、「対立」をあぶり出す前に、

「そもそもこの会社の目的って何だっけ?」

という根本的なポイントに全員が合意する必要があります。

そこがちゃんと担保できれば、激しく対立してもお互いに最終的に戻ってくる所がはっきりするからです。

チームビルティングで有名な「The Five Dysfunctions of a Team」(Patrick M. Lencioni)によれば、チームは、下記の段階を経て成長していきます。

 

第1段階 相互不信感 

 →信頼醸成(弱みを見せられる相互関係の構築)

第2段階 表面上の調和 

 →対立(コンフリクト)することへの恐怖の克服(自然な対立を受け入れる)

第3段階 コミットメントの欠如 

 →ゴールへコミットする姿勢

第4段階 責任の回避 

 →ひとり一人が計画実行への責任を持つ

第5段階 成果の追求 

 →チーム全体の成果達成へ注意を払う

本当の調和は、第2段階の後に生まれるのですが、第2段階のを吹っ飛ばして、いきなり「調和(和)」だけ求めても、いいアイデアや、本当の意味でのチームワークは生まれにくいのです。

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そもそも多くの会社で「非生産的コンフリクト」が起こる一因は、経営学者グレイナーが示した「組織成長の第3段階」の罠にハマっている所に起因しています。(要は組織化のプロセスで、本当はそれぞれがつながって行うべき仕事を、組織マネジメントの都合で分断してしまうのです。)

したがって、まずはマネジメント上の問題を克服する必要があるのですが、その上で完璧なマネジメントを行ったとしても、やっぱり「対立」は起こります。

というより起こす必要があります。

というのは、実際は市場も顧客もどんどん変化するからです。

もし会社を取り巻く外部環境に全く変化がなく、それに応じた完璧な官僚組織が作られていれば、対立はほとんど起こりません。想定外の対立が起こった場合、それを上にエスカレーションさせ、対立がおこらないように業務を標準化する仕組みがうまく機能するからです。しかしそんな世界は存在しません。

したがって変化に対応しようとすれば、(目的ではなく)手段レベルで、よりベターな選択肢を選ぼうと対立が起こるのは健全です。むしろ対立が全く起こらないとしたら

「みんな一方向しか見えていない」

「他人と対立をしてまで目標を達成しようとしてない(シラケている)」

など、別の問題が起きている可能性があります。

さらに「グループシンク」(GroupThink/集団浅慮)の影響も考えられます。これはグループで意思決定しようとすると、だんだんと本来の目的からずれて、いつの間にかメンバー間で合意すること自体が目的になってしまったり、誰かが考えているに違いないと思ってリスクの判断が甘くなったり、集団の「空気」に支配されて、容易には反対意見が言えなくなる心理状態のことです。

じゃあ、どう対立を処理し「生産的コンフリクト」に導けるかと言えば、<方法論>が必要なのです。

GEでは、この方法を「ワークアウト」と呼んで熱心に教育していますし、TOC(制約理論)で使われる「クラウド」(対立解消法)が、多くの会社で成果を上げているのも、このコンフリクトマネジメントの方法論として優れているからです。

「和」(=調和)

を組織で達成できれば素晴らしい事ですが、得てしてはじめから「和」自体を目標にすると、対立が表面に出なくなるだけで、かえって水面下で増幅する事が少なくないように思えます。だからこそ、「対立」と「和」はワンセットで考える必要があると思う、という話でした。


こちらの記事もご参考までに。

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