大人の考える技術

若林計志が経営・MBAのフレームワークやマネジメント理論を応用しながら、ビジネス・社会問題を考察します

吉田兼好はイノベーター:「はかなし」というコンセプトが生まれた背景

溜まっていた書類整理のついでに以前に受講した

イシス編集学校」 

の資料を発見したのですが、その際に松岡正剛校長の「はかない」という言葉について解説記事を発見しました。

以前は読み流してしまっていた文章なのですが、よくよく考えてながら見てみると、

「”はかなし”というのはまさにイノベーションだ!」

という事に気づきました。

元々「はかなし」という言葉は「はか+なし」の合成語です。

「はか(量)」は、はかどる、はかばかしい、などを意味する言葉で、今でも使われています。

それをベースに生まれた

「はかなし(儚し)」

という言葉は、鎌倉時代末期に生まれた言葉で、ちょうどそれまでの、

<効率性が高いこと(=はかどる)は良い事だ>

という価値観が崩れかけていた頃でした。

中央政府がごたごたし、何が正しくて、間違っているかはっきりしない。疫病で突然人々が死んだり、悪天候で飢えに苦しむ事もある。

つまり「効率性」を追っても、それで必ずしも幸せになれる訳ではないんだということを、みんな感じ始めていた。

そんな中から

「<はかがない>ことにも美しさがある」=はかなし

というコンセプトが急速に世の中に普及し始めた。

そういう時代の気運とでもいうべきものを、先鋭的に感じ取り、新しいコンセプトとして書物として書き記したのが「徒然草」の著書であり、神主の息子だった吉田兼好という訳です。今で言えば、人々が潜在的に欲していたものを「これですよね」と具体的な形に提示してヒットを飛ばしたジョブズに似ています。

ちなにに、その後「はかなし」のコンセプトが「わびさび」のような日本らしい文化に結実していったのを見ると、これが日本における時代の大きなイノベーションだったことは間違いありません。

最近よく「イノベーション」の重要が叫ばれますが、元々「千三つ」と呼ばれるぐらいイノベーションは成功確立が低いものです。

「効率性」の観点から見ればムダだらけで、最悪です。

しかしイノベーションを軽視すると、「効率性」の追求は壁に打ち当たり、標準化されてコストが低下し、やがて企業は競争力を失ってしまう。

だから、一見ムダに見える事でも、効率性を無視して取り組まないとダメなんですね。

「はかなし」を愛でる気持ちを大切にしたいなと思ったのでした。おしまい。