大人の考える技術

若林計志が経営・MBAのフレームワークやマネジメント理論を応用しながら、ビジネス・社会問題を考察します

Eラーニング設計のそもそも論(正しいEラーニングの作り方 その1)

どこでもブロードバンドが使える環境、iPadスマホなどのコンパクトなモバイルデバイスの登場、撮影機器の高性能化&低価格化などによって、年々Eラーニングを導入するハードルが下がっています。

その一方で、

「Eラーニングを導入したけど、社員のモチベーションがイマイチ上がらない」

「効果があるのかないのか正直分からない」

「やはりリアルの講義でなければ伝わらない何かがある」

といった声があるのも確かです。

私の仕事はひとつは、Eラーニングの設計・運用のアドバイスをする事です。その際に役立つのが、実際に社会人向けのビジネススクール(大学院)を10年以上に渡って運営してきた経験です。仕事をするにあたって学問的な知見は参考にするのはもちろんですが、実際の現場では、教科書には載っていない様々な事件が起こります。

それら想定外の出来事の原因を一つひとつ調べ、対策案を考え、そして実行して結果を測定し、さらなる改善を図ります。このような仮説検証をプロセスを高速で繰り返し回していき、うまくいった方法を「標準化」していきます。

そして、そこを土台にして新たな挑戦を行い、さらに磨きをかけていく。それが実際のEラーニング運営の世界です。


よくEラーニングの課題として挙げられるのが、

「卒業率(履修率)の低さ」

です。これを単に

「受講生のやる気がないのが悪いんだ」

「ちゃんと受講を修了した人もいるんだ」

などと言い訳してしまったら、その時点で終わりです。

Eラーニングは自己学習型の本や売り切りのDVD教材ではありません。ましてやインタラクションを売りしたEラーニングプログラムにおいて、すべてを受講生の責任にしてしまったら、それは運営側としての「敗北宣言」に等しいものです。

haiboku

受講生が脱落してしまったのであれば、それは自分の責任だ。

少なくとも、それぐらいの真摯さと意気込みで原因を突き止め、責任を持って問題を解決するのがプロです。(本当は学習システムのデザイン(Instructional Design)が悪いのが理由なのですが、それは後ほど解説します)

Eラーニングではないですが、私自身も昔からいろいろな通信教材にトライしては、途中で挫折してしまったという苦い経験があります。読者のみなさまも同じような経験があるかも知れませんが、それを

あなた(受講生)に根性がないのが悪い。自業自得だ

と提供業者が言ってしまったらアウトだという事は、常識的に分かります。もしそう考えたら、もうそれ以上の進歩はないでしょう。(こういうのを”プロダクトアウト思考”と言います)では、どうすればいいのでしょうか?

たとえば、

「脱落しそうな人に、定期的に応援メールを送る」

「電話をかけて励ます」

というやり方を「チアリング(Cheering)」(まさに”応援”です)といいますが、これには一定の効果があります。Eラーニングは、物理的にどこかの場所に決められた時間に集まる訳ではないので、こういう受講を思い出してもらう(リマインドする)の方法が有効なのです。

しかし、もし「大好きな人から毎週水曜2200に電話がかかってくる」とか「知り合いが日曜放送の情熱大陸に出ている」としたら、いちいちリマインドされなくても覚えているはずです。(もちろんカレンダー機能を実装して、自分にリマインドメールが飛んでくるようにできればベスト。)

ということは、メールや電話で受講を促すというのも、根本的な解決策ではないのです。

実際に受講がストップしている人にお電話をかけて理由をお聞きすると、その答えは99%決まっています。

忙しいから

です。もちろんそれは100%本当です。社会人は毎日忙しいのです。ただ、どんなに忙しくても、優先順位が高いこと、自分が心の底からやりたいことは、どんな手段を使ってでも時間を捻出するはずです。

とすれば、Eラーニングの優先順が圧倒的に低いのです。それほど重要でもないし、楽しいとも思っていただいていないのです。もっとストレートに書けば

「つまらない」

のです。やればやるほど、時間を忘れて思わずのめり込んでしまう。次回の講義が待ち遠しい。そういうプログラムを設計、運営するのがプロです。

ではどうすれば、そんな面白いEラーニングプログラムが作れるのか?その答えらしきものは明らかにあります。

それを次回より皆さんと考えていきたいと思います。