大人の考える技術

若林計志が経営・MBAのフレームワークやマネジメント理論を応用しながら、ビジネス・社会問題を考察します

行政改革の鍵はKPIの変更

省庁や公共団体の方々とお話することがたまにあるのですが、私がお会いする方は本当に良い方が多いし、どちらかといえば、世の中の役に立ちたいと思っている熱いハートを持っている方ばかりです。

その一方で、上にいくほど縄張り意識が強くなり、縦割り行政になっていくのも本当のようです。

いろいろな話を総合すると、いわゆる官僚の問題というのは、人事評価の指標である「KPI(Key Performance Indicator」がうまく機能していないことに起因していると言えそうです。

官僚(財務省)出身で大学教授の高橋洋一さんによると、中央省庁では「課長」がキャリア上の節目になるのだそうです。というのは、課長以上になると、評価の基準(いわゆるKPI=キーパフォーマンスインディケーター)が

「自分の部署にどれぐらい予算を引っ張ったか」

「その予算をきちんと執行したか」

「(先輩のいる)天下り先に奉仕したか」

に変わるからです。

もう一度繰り返します。評価基準は「結果を出したか」でなく「予算を執行したか」なのです。何かおかしいですよね。

おそらく中央省庁に務める方は、元々優秀だし正義感も強いのだろうと思います。ところが、そもそものKPIが間違っていいれば、正しいことを通そうとすればするほど、上と衝突することが多くなってしまいます

その上、ご家族ができたり、ローンがあったり、出世の道が閉ざされる(もしくはクビに追い込まれる)ことを考えれば、リスクを背負って組織改革の旗は振りにくいのだろうと容易に推測できます。

このようにして、課長職を境に、組織のルールに妥協できない人は飛び出し、妥協した人は「長いものには巻かれる」ことで出世していく仕組みなのです。(もちろん例外あるのでしょうが・・。)

分かりやすい例として、2010年6月に都水道局が「水の科学館」で使う10分のプロモーション映像を8850万円という法外な料金で外注していたことが都議会で指摘されたケースを考えましょう。

おそらく「こりゃ何が何でも高い」「ぼったくりに近い」と思っていた現場の職員は何人もいたはずですが、それが止められなかったのは、こういう行為が習慣化していたり、OBに関連する企業だったりする状態があり、(課長以上の)上司の決定に逆らえなかったのだろうと推測できます。

こういう自体を防ぐために、現場の職員を批判しても効果はありません。 むしろ志しある現場の人が原理原則に従ってきちんと力を発揮できるようにKPIを変えなければ、縦割り行政や天下りなどの問題は絶対に解決しません。そして、それを変えられるのは今のところ政治家しかいません。

ところが、そこにはすでに利権構造が出来上がっており、メスを入れようとしたとたんに、 既得権益を守りたい反対勢力の工作によって失脚するんですよね。(この辺りは、民間企業でもほとんど同じです。)政治家が行政改革が出来ない理由は、このあたりのせめぎ合いにあります。

地方の首長だったら比較的権限が強いのでトップダウンでKPIを変えられますが、国政なるとその難易度は数百倍でしょう。したがって利権と権力を持っている人が喜んで協力してくれるような「仕組み」をいかに作るかがポイントになりそうです。