大人の考える技術

若林計志が経営・MBAのフレームワークやマネジメント理論を応用しながら、ビジネス・社会問題を考察します

講義映像のフリーミアム化に勝つための学習体験ビジネス

大学や大学院の授業をネットで無料公開する動きが世界中で一気に加速してきました。

昔からMIT(マサチューセッツ工科大学)が授業やシラバスの一部を公開するOCW(Open Course Ware)があったり、最近ではTEDが有名になったりと、ネットで質の高い映像を無料で見られる動きはありましたが、この動きはタブレットやネットインフラの進化によって、本格的な成長期に入ったと言えそうです。

なんといっても面白いのは、スタンフォードやハーバードといったいわゆる「名門校」がこの動きを主導している点です。このような動きがどんどん加速すると、いわゆる「中堅」大学が、授業を非公開する理由がなくなります。

また民間企業がビジネス系の講義映像やセミナー映像を、ネット動画やDVDで販売するビジネスモデルはどんどん厳しくなるでしょう。受講料5000円で実施したセミナーを映像に収め、半額の2500円で映像販売したとしても、実際にはそれほど売れないのです。

なぜなら映像になった瞬間に、無料で見られる地上波のテレビ番組やYouTube動画と同じポジショニングになってしまうからです。

日本でも、東京大学がこの無料オンライン動画の世界に向けて一気に舵を取る決定をしました。

東京大学が無料の大規模公開オンライン講座(MOOC)を9月開講

「単位」は提供しないが、一定の基準を満たせば「履修証」を発行(日経パソコン)

今後、積極的に授業映像を動画公開していく大学によって、カリスマ教授の獲得合戦が起こるかも知れません。これはちょうど衛星中継をしている大手受験予備校間で、カリスマ講師の引き抜き合戦が起こっているのと一緒です。

そして、その先どうなるかと言えば、他業界のフリーミアム戦略を見れば明らかです。ソーシャルゲームなどは分かりやすいですが、無料ユーザーの中から、「もっとお金を払ってもいい」と言う10−20%のユーザーを狙って、高付加価値の有料サービスを提供するようになるはずです。

大学授業の無料公開の例でいえば、お金をとれる付加価値=「卒業資格」となります。もちろん、そこにいくまでには大学内部でもハードルがありますから、その手前の「受講証明書」とか「修了証書」の発行のような形でどんどん動きが加速するでしょう。(もうアメリカではこの方向に動いています。)

また、そのような動きに連動して企業側でも

「ウチは東京大学の◎◎教授のオンライン講座修了書を持っている人を評価するよ」

スタンフォード大の◎◎先生が研究している素材技術に興味があるので、オンラインでも彼の授業を取っている人はウェルカム」

みたいなところが出てきて、履歴書でアピールできるようになります。(特に理系はこの動きは早いかも。)


●ビジネスモデルの二極化

さらに映像と連動した「体験を売ること」にフォーカスが当たるはずです。映像自体によるマネタイズではなく、学習コミュニティにおける学習体験(Learning Experience)を通じて、喜怒哀楽を経験したり、仲間が出来たりといったことこそが、有料で売れるバリューになるのです。

もう一方の単純な映像販売の方は、コスト競争が激しくなり確実にレッドオーシャン化します。

こういう事は業界の未来を考えている多くの関係者は5−6年前から予想していました。私もそうなるだろうと考えて、ビジネスモデルを構想してきましたが、いよいよ「予想どおりの世界に突入」という事でワクワクしてきます。

現在は、いかに新しい教育ビジネスをローンチするかを企画中です。

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「MOOC(ムーク)のビジネスモデル(どうやって儲けるのか)」

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「Eラーニングの未来:学習体験を売る」

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