大人の考える技術

若林計志が経営・MBAのフレームワークやマネジメント理論を応用しながら、ビジネス・社会問題を考察します

アホは出口さんです、と社員が言える会社

ライフネット生命社長の出口氏のコラム(日経ビジネス「20代の社員に「アホは出口さんです」と言われました インターネットのコミュニケーション 出口治明編)」)が面白いのでご紹介します。

ある日、20代の若手社員が奇抜なイベント企画を持ってきたので、出口氏は

「ふざけるんじゃない。君はライフネット生命保険マニフェストをもう一度読みたまえ。どこにそんなことをすると書いてあるんだ。アホか!」

と言ったそうです。ところが若手社員に「アホは、出口さんの方です」と言い返され、その説明に納得した出口氏は協力することにし、結果的にこのイベントは成功します。

この話が示唆に富むのは「お客さんに近いのは社員の方だった」と出口氏が語っている事です。

それにしても、どうして若手社員さんは社長と議論する事ができたのでしょうか。それは会社が進むべき方向が経営理念としてはっきりと表されていたからです。そして、その経営理念の実現を目指して進もうとする限り、社長と社員は対等な関係なのです。ただし、実際にこういう関係が築ける会社は、それほど多い訳ではないので、余計に素晴らしいなあと思います。

ライフネット生命の例に限らず、優秀な社員が会社を盛り立ているケースが割とありますが、それらはすべて「会社が進むべき方向」(経営理念/ミッション)がはっきりしているからこそ可能になっているといっても過言ではないでしょう。

credo

拙著「MBA流 チームが勝手に結果を出す仕組み」のP155に上記のような図があります。会社のミッション(経営理念やクレドと呼ばれます)は、本来役職に関係なく、全社員にとって目指すべきものです。そしてミッションを一番体現している人のためのポジションが「社長」です。

逆にダメなパターンは、そもそも「会社が進むべき方向」が不明確だったり、上の方が矛盾していると思われる行動をとったり、経営理念が形骸化しているケースです。何が正しいかがさっぱり分からないので、組織は次第に「空気」で動くようになります。(ニワトリ会議を参照)

前述のライフネットのケースで言えば、出口氏や側近が

「内容はともかくトップに意見するとは生意気だ」

という態度を取ったら、それを見ていた社員のその後の反応は大きく変わっていくはずです。


組織が大きくなると、中間者が権力を握るようになります。ありがちなのは、現場を知らないお殿様が“裸の王様”になり、面従腹背の側近たちが次第に政治的な権力を握るパターンです。(最後にはトップを追い落とすクーデターが起こる事も。。)

国会の福島原発事故調査委員会は、規制する側の者(経産省)が、規制される者(現場をよく知る電力会社)にコントロールされるという「規制の虜」の関係を指摘しましたが、これと同じ状況が発生するリスクをあらゆる組織が抱えているのです。

だからこそ、「会社が進むべき方向」が明示され、それに向かって”全員”で進んでいけるマネジメントコントロールシステムをきちんと構築しなければならないのです。(蛇足ながら、経営理念の設定は「環境コントロール」に当たります)

破綻したJAL改革を綴ったドキュメンタリー本「JAL再生」(日本経済新聞社)には、稲盛氏が再建に当たって「フィロソフィ」をいの一番に導入した事が書かれており、その効果について下記のように書かれています。

「フィロソフィではこう書いてあったよね。」こうした会話が自然と若い社員のあいだでも交わされるようになってきた。また、これまでは、上司に意見することなどあまりなかったが、「フィロソフィのおかげで勇気を持って言う事ができた」という社員も出てきた。JALフィロソフィは、JAL社員の基盤になりつつある。」

(P93「JAL再生」)

まさに!という感じですね。


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